私は意識を剣に集中し、更なる力を願った。すると、剣を握る力が増大するのを感じる。そうだ、精神体は力を込める箇所を自在に変えられるのだ。魂界から受けたエネルギーが余りにも強大で、全身に力を均等に割り振っても、魂界でシミュレートした時とは比べ物にならない力を発揮出来る為、その事を失念していた。
私は空を蹴り、彼女に剣を振り下ろす刹那、転送を使う!
「キキキィーン!」
背後に転送した私の剣を、彼女は振り向きもせず剣で受け止めた。そして、ゆっくりと振り返る。
「速さも力も貴方は発展途上。ならば、今の内に貴方を消し去る」
彼女の長い銀の髪が逆立った。そして、認識出来る限界を超えた無数の斬撃が私を襲う!
「ブシュブシュッ!」
「ガキンッ!」
私は堪らず転送でその場を回避する。だが!
「これで終わりです」
転送先で見たのは、数万の白い荊のような白光を纏った剣を振り下ろした彼女の姿だった。
「ピカッ!」
彼女の剣が、鎧と私の体を貫通する。そして、白光が私の全身を覆い焼き尽くす……
「ドーンッ!」
海に落ちた。それでも私の落下速度は加速する一方だ。やがて岩盤にぶち当たり、溶岩が私の体を包む。
痛みは感じない。だが、今の一撃で残存しているエネルギーが急速に減少したのが解る。そして……
「(兄さん、フィアレス!)」
溶岩の中で身を捩りながら叫んだ。彼等へのダメージは、直接魂の消耗に繋がる!
「(俺は大丈夫だ……。だが、あの攻撃は何度も耐える事は出来ないだろう)」
兄さんの声が響き、鎧が修復してゆく。
「(僕も平気だ。君が究極の一撃で奴を葬るまで、僕は折れたりしない)」
良かった。私達はまだ戦える。私は自分の傷を修復させた。
溶岩の中で立ち上がり、再び剣を握り締めたその時、何処からともなく声が聞こえた。
「絶対、ルナさんなら勝てる。もっと自分の力を信じて!」
「お父さん、今から私達のありったけの力を送るから」
「フィアレス様、獄界の皆も貴方の勝利を確信してる」
意識の転送、否、直接魂に響いてくる声だ。それだけでは無い。
「ルナ!負けるんじゃねぇぞ!」
「ルナリート君、僕達の事は気にせず全力でぶつかって下さい!」
セルファスとノレッジの声が内から聞こえてくる。
「ハルメス、しっかり弟を守るのよ」
ティファニィさんの声。鎧が身震いするのを感じる。
「(行こう!)」
私達は同時にそう叫んだ。
溶岩を飛び出し、一気にシェ・ファの元へと舞い戻る。
「あの攻撃で無事とは……。予想外のエネルギーです」
彼女の表情が一瞬歪んだ。感情は無い筈なのに、まるで動揺しているようだ。
「もうお前の攻撃は受けない!」
私は残った力を全て解放した。恐らく、この状態が続くのは5分も無いだろう。
「光闇剣!」
極術『光闇』は、神術『光』と魔術『闇海』の融合。肉体の時の極術は、シェ・ファの攻撃を掻き消すのが限界だったが、精神体である今は桁違いの精神エネルギーで発動させる事が可能だ。尤も、フィアレスは精神体では無いので、魔術で足りないエネルギーも私がカバーしている。
「受けてみろ!」
彼女が避けきれないスピードで、私は剣を振り下ろす!
「キィィ!」
彼女が剣で受け止めたのが見えた!その直後、視界が白と黒の斑に包まれる。精神エネルギーの結晶同士の衝突。『星の核』レベルの力の競り合い。この星自体が痛みの叫びを上げている!
大気、海、陸、山、溶岩、そして獄界……。星の全てがのた打ち回っているのだ。
「うおぉぉ!」
力を腕と剣に全て集約させ、私は剣を振り抜いた!
「ドオォォー……ン!」
光闇が霧散する。
周りには何も見えない。シェ・ファの姿も。唯、暗黒と真空と静寂だけがこの場を覆っている。
数秒が経過した。大気が真空に流れ込む。それから暫くして、粉雪が舞い始めた。
「勝ったのか?」
私は辺りを何度も見渡す。だが何の気配も無い。
現状を確認してみる。私が精神体の姿を維持出来るのは、恐らく後1分程度。星剣フィアレスは、柄にも刀身にも無数の罅が入り、一振りで折れそうだ。聖鎧ハルメスは肩当てが砕け、胸当てから放射状に深い亀裂が走っている。
限界が近い。頼む、もう現れるな!
だが……闇の底から小さな白い『一点』がぼんやりと浮かび上がってきた。
鎧が砕け、ローブがボロ布のように破れ、全身が血塗れのシェ・ファ。腰まであった銀の長髪も、今では肩の下までしか無い。
「互いに、満身創痍ですね」
彼女が微笑んだ、ように見えた。一体彼女は?
「く……。次の一撃で終わりだ」
「はい、異論はありません」