「(ルナさん、頑張って!)」
「(お父さん、ハルメスさん、フィアレスさん、わたし達がいるから何も心配しないでっ!)」
「(フィアレス様、この戦いが終われば、あの子の名前を考えてあげてね)」
彼女達の声が『転送』で響く。安心感に満たされ、何でも出来るような気がしてきた。
「精神体で創った剣と鎧です」
ガラスのように透明な剣と鎧。脆そうに見えるが、秘められた力は現世のどんな武具をも凌駕している。
彼女が両手で剣を構えた瞬間、雷鳴が轟いた。そして、無数の白い稲妻が彼女の剣に集約される。
まさかこれ程までとは……。2年前、如何に彼女が手を抜いていたかが解る。私達を倒すのに最小限の力しか使っていなかったのだ。
無意識に一歩後退る。だが、その様子を察知した二人が即座に声を上げた。
「(弱気になるなよ、ルナリート。僕が君の剣になっているんだぞ)」
「(そうだ、俺がお前をしっかり守る。思い切り行け!)」
精神体は酸素を必要としないが、私は深呼吸して剣を強く握り空を蹴った。
「キィーンッ!」
剣がぶつかり合う。もっと力とスピードを!
私がそう願うと、核の宝石から更なる力が溢れて来た。その力で剣を振るう!
「ブシュッ!」
シェ・ファが私の剣を回避出来ずに、左腕にダメージを受けた。だが傷は浅い、追撃だ!だが、
「私も出力を上げましょう」
その声と共に私の視界から彼女が消えた。気配を探る。後ろだ!
「ガキンッ!」
星鎧に衝撃が走る!気付くのが後一瞬遅ければ、首を刎ねられていた。
「貴方もまだまだ出力を上げられるようですね。しかし、出力を上げれば上げる程、精神体で居られる時間が短くなる。そうでしょう?」
「そうだな。だが、どの程度まで力を出せるか、どれぐらいの時間戦えるかは私にしか解らない。精神体は誰の心でも覗けるが、お前は唯一私の心は読む事は出来ない」
私は不敵に微笑んだ。それでも彼女の表情は変わらない。
「その通りです。それにしても、私以外の精神体がこんなに傍に居るのは、とても久し振りです。この感覚は、貴方達の言葉を借りれば『懐かしい』と形容するのでしょう」
シェ・ファの他の精神体、それは即ち別の『存在』。宇宙は、『存在』から生まれた。その『存在』は言わば『存在の源泉』だ。源泉から飛び出した存在は星となる。彼女は、『この星』になった時から独りだったのだ。それを考えると憐憫の情が沸いたが、直ぐに打ち消す。私は彼女を倒さなければならないのだ。
其処で一つの疑念が浮かんだ。彼女を倒せば、否、彼女を消し去ればどうなるのか?
「私がお前を倒せば、この星はどうなる?」
この問いの答を知っているのは彼女しか居ない。答が何であれ、私が彼女を倒すのに変わりは無いからこそ、その問いを投げかけた。
「私が完全に消滅すれば、この星も崩壊するでしょう」
予想通りだ。だが、一つだけ方法がある。出来ればそれを彼女の口から聞きたい。
「しかし、貴方なら解っていると思いますが、私の『意志』のみを破壊出来れば生命は死滅せずに済むでしょう」
やはりその方法しか無い!
彼女は本来意思を持っていない。意思は、12の魂によって造られたもの。ならば、12の魂と意思を砕けば良い。そうすれば彼女は再び眠りに就き、この星の生命に安息が訪れる。
「それを聞けば十分だ。心置きなくお前を倒せる。尤も、私がそれを実行出来ないと踏んでいるから話したのだろうが」
「ご明察です」
その言葉を聞いた直後、私は彼女から出来るだけ離れた。力を解放する為だ。今迄が40%、これから一気に80%まで引き上げる。
「うおぉぉ!」
星全体が鳴動を始めた。海底からは盛んにマグマが噴き上げる。そして、私自身はS.U.Nのように光り輝いている。
「生命の足掻きは、もうそれぐらいで良いでしょう」
彼女が透明の剣に、濃縮された白光を纏わせ突進して来た!剣が私目掛けて振り上げられると同時に、私は全力で星剣を振り下ろす!
「カッ!」
剣がぶつかった瞬間、光が弾けた!
剣を中心にエネルギーの波動が拡がり、全てを飲み込んでいく。空気は真空となり、海は干上がる。大地は消滅し、後には何も残らない。上も下も横も、見渡す限りが無と化した。私とシェ・ファを除いて。シェルフィア達は?
「(シェルフィア、無事か!?)」
私は冷や汗をかきながら、全世界に向けて意識を転送する。
「(ええ!三人とも転送で100kmぐらい離れたから大丈夫)」
「(良かった。だがもっと離れてくれ。此処から半径500km以内には誰も近づけてはいけない)」
「(解った!)」
剣がぶつかるだけで、半径数十kmが消失する。精神体の力はこれ程なのか……
「この程度の衝撃で何を驚いているのです?まさかそれが貴方の全力ですか?」
シェ・ファには傷一つ無い。そして私にも。どうやら私は、全力で剣を振るったつもりが、力を抑えていたらしい。
「そう思うか?」