「僕は考えを間違っていたんだね」
蕩ける程の甘い口付けの後、僕は囁いた。
「……えっ、何をですか?」
火照った顔が僕を見上げる。
「……強固な使命感を持つ僕は、安穏と暮らしているルナリートに負ける筈が無いと思っていた。それは誤りだ」
急に戦いの話を始めた僕を、彼女は不安気に見つめる。
「愛する者がいて、それを守る為なら……何処までも強くなれるんだ」
ルナリートがたった一人で獄界に乗り込み、僕達に屈する事が無かったのも、ハルメスが人間界を守る為に自分の命を代償に出来たのも、「愛」する者を守るという、魂に刻まれた強固な思いがあったからだ。
「フィアレス様……私は!」
彼女は、僕の胸に額を埋めた。同時に強く僕を抱き締める。僕を行かせたくないのだ。戦いが待つ人間界へ。
「キュアの気持ちは解る。僕も自分の心を理解した。だからこそ戦うんだ。僕達二人、そして獄界に「光」溢れる未来を創り出す為に!」
僕は生まれてから今までずっと、自分がエファサタンと言う事に囚われていた。自分が生きる意味は、獄王としての責務を果たす事であり、自由を求めたとしてもそれは、自己が獄王であるという認識の上での自由だった。
だが、今は違う。
愛する者を守り、幸せになるという不動の意思を持ち行動する結果が、獄界全体の幸せに繋がるのだ。
今までのように、「重い責務」とは感じない。自分の意思で未来を切り拓く事が出来るという希望に溢れている。
「ルナリート、人間界と戦う」、それは変わらない。変わらないのに、愛という希望を知る事により心の芯の強さが増した。
「ならば、私も共に行きます!私の未来は貴方がいなければ何の意味も持たない。幸せな未来は、これから長い時間をかけて創るもの。その為に、私が出来るのは貴方を守る事だから」
幼馴染で、今まで幾度となく見てきたキュアの目。その目がこの言葉を発した時、最も強い光を帯びていた。
僕達は言葉に出さずとも、共に生き共に死ぬ覚悟がある。そして、永遠の魂の結び付きを信じている。
僕がキュアの立場でも、同じ事を言うだろう。
「わかった。但し、僕の目の届かない所で独りで戦ったりしては駄目だよ」
その言葉に、彼女は深く頷く。
「僕は今から、獄界全体に今後の方針を伝えないといけないね。そして、僕とキュアの結婚について……エファサタンが初めての配偶者を持つ事についても知って貰おう」
僕が微笑みながらそう言うと、キュアは再び頬を赤らめた。
「はいっ!」