「キュア。僕の所為でごめん……。やつれたね」
僕が微笑むと、彼女は僕に背を向けた。肩が震えているのがはっきり解る。
だが、暫くの沈黙の後、意を決したのか震えが止まった。
「……私は、貴方が元気になってくれるなら、何度だって看病します。でも貴方は……傷付いて、苦しんで……自分に課せられた重い責任の為だけに生きようとしています!」
何も言えない。その通りだからだ。
「……嫌なんです!このままじゃ、いつか貴方はこの世界から失われてしまう!……そうなれば、私が生きる意味なんて無いわ!」
礼儀を重んじる普段の彼女じゃない。まるで、僕達が子供の頃のような遠慮の無い口調……。僕への思いが一杯で、溢れる感情が抑えられないんだ。
「ずっと、ずっと……私は貴方が……本当は誰よりも優しい心を持った貴方が」
彼女がそこまで言った時、僕は立ち上がり背中から包み込むようにそっと抱き締めていた。
「それ以上、言わなくていい」
僕は、はっきりそう言ってキュアの正面に向き直り再び抱き締めた。
「キュア、愛してるよ。だから、泣かないで」
「フィアレス様……・・・!?」
自分が言おうとした言葉を僕に言われて驚いたのだろう。
キュアは僕をこんなに想ってくれて、僕が苦しい時はいつも傍に居てくれた。僕は、獄王で皆に畏れられる存在。孤独に、獄界の為に生涯を終えるべき存在。獄界の魔はそれを獄王として当然の事と受け止め、僕を一人の男として見る事は無い。
なのに、彼女は僕の願いと幸せを第一に考えてくれた!獄界よりも、自分自身よりも僕を想ってくれる。
まるで闇に射す一筋の光のように、彼女の心は僕を優しく……力強く包み込んだ。
僕もキュアが大切で仕方が無い。獄界の為……否、彼女と共に幸せに生きたい!
そう想った時、僕の口から自然と言葉が零れたのだ。そして……
「ん!?」
呆然とするキュアに僕は優しく口付けをした。彼女の顔が見る見るうちに朱に染まる。
「嬉しい……こんなに心の中が一杯の幸せに満たされるのは生まれて初めてです」
「私も……ずっと貴方を、永遠に愛し続けます!」
今度は恋人となったキュアが、僕にキスをした。長く……そして、深く。
魂が絡み合い、結び付く。二つの異なる心が解けて一つのものとなるような感覚だ……
僕は独りじゃない。此処に……誰かに必要とされて生きている。それを深く実感出来た。
何と幸せな事だろう。確かに、僕達の心は一つになり此処に存在しているのだ。