「リルフィ、私も同じ事を思うわ。ずっと、ずっと……。一番素晴らしいのは、人間も魔も仲良く暮らせる事よ。でも、そうなるにはとても長い時間がかかる」
シェルフィアはそこで一息ついた。彼女の考えは長年傍にいたので、良くわかる。続きは私が話そう。
「そうだよ、パパもフィアレスも頑固だ。そして、人間と魔もそれぞれに価値観を持っている。でも皆、多かれ少なかれ争いの無意味さには気付いている筈なんだ。それでも、上手くいかないのは」
「代々受け継がれた意思を変えるのは難しく、「理想の世界」というのは人間と魔で異なるから」
そうだ。リルフィはよく解っている。エファロードとしての力を早くも発現させ、多くの本を読んできた彼女は。
「その通り。でも、パパ達はこの戦いを最後にするつもりだ」
隣のシェルフィアが強く頷く。
「どうやって?人間にも魔にとっても幸せな世界を創るの?」
「究極的には、人間も魔も分け隔て無く暮らせる世界を創る事。人間界、獄界なんて区別も必要の無い世界」
私達は同様の事を口にした。これが今すぐ実行出来たら如何に素晴らしい事か。
「それをフィアレス、獄界に理解してもらう為に戦うんだ。否、フィアレスは解っているだろう。解っているが、獄王として「人間界との融和」は認められないんだ。だから、半年後の戦いで私達が勝利して考えを認めさせるしかない」
リルフィは不安げに頷いた。
仮に私達がフィアレスと魔を打ち破り、「隔ての無い世界」の実現を目指すよう約束させるとしよう。しかし、その後が理想通りに行くかどうかは解らない。否、困難を極める事だろう。それを見越して、リルフィは安心する事が出来ないのだ。
「リルフィ、大丈夫よ」
その時、最愛の妻が娘の頭をそっと撫でる。娘は、母の穏やかで強い表情を見上げた。そして、母は語る。
「ずっと昔、ママが生まれ変わる前……世界に平和なんて無かった。でも、パパが空から降ってきて人間の為に戦ってくれた。そして、平和が訪れたの」
「(……私は、『人間の為に』ではなく『君の為に』戦ったんだ。それが結果として人間の為になっただけだ。)」
私は心の中で呟いた。
「パパもママも……リルフィの為なら、命だって惜しく無い。そして、心から愛する人の為なら幾らでも強くなれるのよ」
「そう、私達にとって一番大切なリルフィの為なら……リルフィが幸せに暮らせる世界を創る為なら、半年後、もっと未来の困難さえも乗り越える事が出来るんだ」
そう言って、私は二人の肩を抱いた。この手で生涯、何度生まれ変わっても守らなければならない大事な二人を。