ハッとした。多分此処にいる全員が。
眠りの原因である獄界の植物は、さっき焼き払った。だが、レンダーも含め街の人間は一向に目覚めないようだ。
「その植物のサンプルはありませんか!?」
一人の学者が何かを閃いたらしい。その声には、学術的探究心から来る喜びが含まれていた。しかし、植物はもうこの世界に存在しない。どうするべきか……
「私が持っているわ」
驚いた!私の妻と娘ながら恐ろしい……
植物のサンプルを持った学者は、研究室に走り去った。成分分析を行い特効薬を作らなければ、眠っている人間を目覚めさせる事は出来ない。だが、研究対象は闇エネルギーを内包した獄界の植物の為、化学的見地からだけではなく、神術、魔術を含めて総合的に解析しなければならないだろう。
人間界で最高の頭脳を持つ面々が、夜を徹して眠りを呼ぶ植物の解析に集中した結果、二日後には特効薬が完成した。
更にそれは世界中に届き、各地で量産され、眠っている人々は次々と目覚める。全ての人間が目覚めるのに、一週間は必要無かった。
その連携の巧みさと強固な絆を見て私は、半年後人間が魔に屈する姿を想像する事は出来なかった。
〜ある夜〜
全ての人々は眠りの淵から目覚め、起こった事実と半年後の現実を知った。
皆、最初は驚いていたが直ぐに手を取り合って戦う覚悟がある事を私に示す。
そして、私は二週間後に世界の要人を一堂に集め、来たるべき半年後に向けての会議を行う事を決めた。
そんなある日の夜だった。
「こんな夜は久し振りね」
フィグリル城の屋上、天を埋め尽くす星明かりの下に私達家族3人は居る。夏の夜の涼しい風が頬を掠めた。
「そうだな、平和と安息を求めて戦った日々を思い出してしまう」
私とシェルフィアは、グラスに注がれたワインを一口飲んだ。そこでリルフィが話し始めた。
「わたしが生まれる前、パパとママは戦っていた。皆が安心して暮らせる世界にする為に」
私達は黙って頷いた。星々の中央に浮かび上がる柔らかな月光を見つめながら。
200年以上も前から夢見続けた「現在」は、再び脅威に晒されている。掛け替えの無い大切な者を犠牲に築き上げられた「現在」が。
「わたし……争いが嫌い。同じ星で生まれて、同じように夢を抱いて生きているのに、どうして争わなければいけないの?信じるものが違うから?大切にしているものが違うから?」
リルフィの問いかけに、私は即答する事が出来なかった。そこで、穏やかな顔をしたシェルフィアが答える。