そして、明らかな力の低下……僕はこの瞬間全てを悟った。父は……この9年、最後の命を削って獄界を維持し続けていた。こんな状態で、人間界を中界に変える事など出来はしない。もう、力も時間も残されていなかったんだ!
「まずは……その体を動くようにしなければな……苦しかっただろう」
父は十字架を降り、空間に浮かぶ僕の体に手をかざした。十字架を降りるという事は、二度とその十字架には戻れない。即ち、残された力の全てを子に継承する事を意味する。
「僕は……今までずっと寂しかったです!」
痛みが消え、体が動くようになって僕はすぐさま父を抱き締めた!
「お前を生み出し、1735年……我はお前を想わぬ日は無かった。しかし……父親らしい事を何一つ出来ずにすまなかったな。こうして、抱き締めてやれるのも最初で最後だろう」
父もそう言いながら、力を振り絞って僕を抱き締める。初めての抱擁……それは、弱々しい腕に背中を支えられるような感覚だった。
ずっと僕が切望してきた感覚……とても嬉しかった。でも、それ以上に僕は堪らなく悲しくて、涙で前が見えなくなる!
「泣くのではない。我が息子よ。何も悲しむ必要などないのだ。魂は離れる事になるが、消滅する訳では無い。再び出会える日は必ず来る。そして我の力と記憶は全てお前に継承される。我の考え、意思はお前と共にあるのだ。だから悲しまずに、自分の信じる道を生きよ」
僕の考えは、全て父にお見通しだったのか……決して僕を咎める訳でもなく、父は僕の自由な未来を認めている。自分は……全てを獄界の為だけに捧げてきたというのに!
「うぅ……お父さん!」
僕の慟哭の声が大きくなるのと反比例して、父の声は小さく……そして、肉体に宿る力が弱々しくなってくる!そして……
「第23264代……獄王……その名はフェアロット……その力を以って……『闇命(DarkLife)』を行う!」
「待って!僕はもっと話を!」
僕はそう叫びながら、父の意思と力……そして、記憶の濁流が僕に流れ込んでくるのを感じた!
僕は……第23265代……獄王。でも、今は何より……目の前にいるフェアロットの息子なんだ!
「お前は……今までのどんな獄王よりも自由を愛し、孤独を憎む。ルナリートとハルメスが、『愛』を命題に生まれたように……だが、今のお前には、獄王の存在意味がわかるだろう。獄界の存続、魂を生み出し転生させる事、そして深獄の封印という重大な責務を」
そうだ……僕が獄界を存続させなければ、魔の住む場所が無くなる!存続させずに、魔が生きるならば人間界を征服するしかないだろう。