僕は背筋が凍るのを感じた。僕は……天界が現存し、『死の司官』だった頃ですら究極神術までしか使えなかった。そもそも、禁断神術は神であるエファロードのみに許された神術だ。今の僕は、恐らく高等神術を発動させるのも難しいだろう。神術はレベルが上がれば上がる程、肉体的及び精神的な消耗が激しい。でも!
「……やるしかない!」
ここで……ルナリート君にこの事を打ち明ければ……きっと簡単に蘇生を使ってくれるだろう。でも、愛する人ぐらいは自分で助けたい!これは僕の意地だ。
「ディクトさん、僕は今からリウォルに戻り……自分の命をかけて……禁断神術『蘇生』を使います。でも、発動出来なかった場合はルナリート君に助けを求めて欲しいんです。だから、一緒に来てくれませんか?」
僕は強い覚悟を込めた目でディクト氏をじっと見た。
「承知しました。行きましょう!」
彼は僕の考えを全て汲み取ってくれたようだ。
レンダーの家を出て約一時間、それでも気が遠くなるような長い時間の後に僕はディクト氏と共に禁断神術が描かれた本を持ち帰った。
「お待たせしました!皆さん、離れていてください!」
「ノレッジさん(様)!」
僕は、まず『停止』の神術を解いた。すると……再びレンダーが血を吐き出した!僕は彼女の手を握り締める。
「レンダー……もう大丈夫だから。僕を信じてくれ」
敬語など、どうでも良かった。僕は彼女を助けたい。今の僕を構成するのはそれだけの気持ちだ。
「禁断神術……蘇生(Resuscitation)!」
僕が術式を描いた瞬間!物凄い速度で力が奪われていくのを感じる!これが……禁断神術の反動!指先の感覚が消え……視界が狭まる!そして、体の奥底から激痛が走る。痛い!この痛みは精神が削れていく痛みだ!体も……心も……鈍い刃物でゆっくりと削られていくような激痛!だが……発動にはまだまだ力が足りない!このままだと……僕は死ぬんじゃないか?
「……ノレッジ様」
その時、消え行く視界と聴覚の中に再びレンダーの姿が映った!僕は……まだやれる!
「うわぁぁ!」
意識が光に溶けてゆく!これで僕は天使としての全ての力を失っても……構わない!いや……自分の命さえも!僕がそう思うと……心の奥底からまだ力が溢れてくる感覚があった。もう、五感は失っているというのに……そして……溢れてくる力が全て放出された後……僕は完全な闇の中に落ちていった。