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「今日もいい風が吹いているわね。さぁ、暗くなる前に夕食の準備を済ませないとね!」

 今晩は湖の近くで夕食を摂る。大自然の中で、家族だけの時間を過ごし食事をするのは最高の贅沢だと思う。

「よし、私は焚き火と食事場所を作るよ!」

 私がそう言うと、リルフィも私と一緒に折りたたみのテーブルや椅子を組み立て始める。

「朝はママを手伝ったから、夜はパパを手伝うね!」

 と言っていたからだ。テーブルや椅子の配置が終わると、私はかまどを作った。そこに、リルフィが拾ってきた薪を入れて『焦熱』の神術で火を点けた。すると……

「パパ、それは神術『焦熱』って言ってたよね?パパもママもそんな不思議な力を使うけど、わたしは使っちゃダメなの?」

 そうリルフィが興味津々といった様子で私に尋ねた。

「うーん……リルフィは私達の子供だし、少し訓練すればすぐに使えるようになると思うよ。でもな、大きな力っていうものは使う必要がないのなら使わない方がいいんだ。この世界は平和で、誰とも争う事もない。それにもし、世界が誰か悪い奴に壊されるような事になれば戦うのはパパだからね」

 私はそう言って、少し遠い目をしながら愛娘の頭を撫でた。

「パパ!そんな事言って一人で抱え込んだりしたらダメよ」

「ははは、そうだな。それだけの事が言える8歳はそうそういないぞ。でもな……パパは、ママと結婚して平和の中でお前を授かるこの未来の為に、昔大きな戦いをした。その時に、凄く悲しい事や犠牲があって……今がある。そんな辛い事はリルフィには味わって欲しくないんだよ」

 私がそう言うと、俯いていた彼女は私の顔を見上げて強い眼差しで言った。

「パパがそう思うのと同じ事をわたしも思うよ。きっとママだって同じ。だから、誰も傷付かないのが一番よ!」

 確かにそうだ。現実はそう甘くはないが、それが一番に決まってる。

「あぁ、お前の言う通りだ。ずっと皆が平和で在り続けられるように頑張ろう!リルフィが大人になってもな」

「うんっ!パパ大好きっ!」

 そう言って無垢な笑顔を輝かせながら、リルフィはジャンプして抱き付いてきた。背中まで真っ直ぐ伸びる真紅の髪が大きく揺れる。

「ありがとう、パパもリルフィが大好きだよ。(リルフィには、誰からも愛されて……誰にでも優しく接する事が出来て……何より、人の痛みがわかる子になって欲しいと思っていたけど、何も心配いらないみたいだな。)」

 そんなやり取りを繰り返していると、シェルフィアの料理が完成して夕食が始まった。

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