前ページ

「よし、出発しようか!」

 私がそう言うと、シェルフィアとリルフィは私の体に抱き付いた。神術『転送』で移動するからだ。

「はーい!」

 二人の声が重なった。転送で移動するのには二人とも慣れているから当然といえば当然か。私は精神を集中して転送の術式を頭の中で描いた。その瞬間、私達の体がフィグリルから消失する!そして、目の前の景色が変わった。

「本当にパパもママもミルドの丘が好きなのね。わたしも好きだけどね!」

 と、ミルドに着いた瞬間リルフィが微笑みながら言った。リルフィは、8歳にしては大人びた口調だ。それは、彼女は本が大好きで5歳の頃から一日に3冊ぐらい読んできている所為だろう。この間、3000冊読破したと言っていたのには驚いた。しかも、私と同じで覚えようと思えば忘れないらしい。彼女は、しっかりとエファロードの血を引き継ぎながらもフィーネとシェルフィアの心も持っている。

「リルフィ、ありがとう!この丘があったからママはパパと出会う事が出来たのよ。何度も言ったけどね」

 シェルフィアはリルフィの頭を撫でながらそう言った。そう言う彼女はとても幸せそうで、リルフィも頭を撫でられて喜んでいる。そんな光景が私には何よりも貴重な宝物だと心から思う。これを守る為ならば私は何だって出来るだろう。かつて、フィーネを救う為に獄界に行った時のように……

「ははは、さぁ丘に登ろう!」

 こうして、私達は丘の上へと歩く。私とシェルフィアの間にリルフィを挟んで3人で手を繋ぎながら。時折、私とシェルフィアが繋いだ手を上にするとリルフィは嬉しそうに真ん中でジャンプしていた。ちなみに、ミルドの丘やリウォルの湖などに私達家族が訪れる時は他の人間には遠慮してもらっている。勿論、それ以外の日は誰でも来れるようになっているが。私達の存在(エファロードや天界、天使、獄界、魔、その他様々な出来事)は、10年前の戦い以降人々に広く知られる事となった。その際に、ミルドの丘やリウォルの湖、フィーネの肉体が眠る輝水晶の遺跡がある島などは『聖地』とされるようになり、人々に丁重に扱われ保護されている。だが、私達の恋愛談が世界中に知れ渡るというのも何処か恥ずかしいものがある。

「さぁ、着いたわよ!」

 ここは、丘の上の大木の下。かつて、私が堕天した時に出来た穴に生えてきた大木の下だ。樹齢は200年を超えるんじゃないだろうか?この木の大きさが、私達の歴史の大きさを物語っているような気がする。

「今日は何を作ってくれたのか、とても楽しみだよ」

 木の下に撥水性の高い皮のシートを敷き、簡単ながらも準備が出来た。そう、ピクニックだ。

次ページ