「そうだろうな。あいつらは優しいからな。でも、未来はそんなに甘くはないさ。この戦いに終止符を打つには、誰かが犠牲になる必要がある。俺が獄界を封じないでどうする?仮にルナが神の説得に成功したとしても、獄界からの侵攻は止まらない。それは、結局の所皆の幸せにはならないんだ。いや、俺が愛する大切な弟……その最愛の人……そして、人間達のな。ルナだって、自分の愛すべき人の為には『命』を懸けるだろう?それと同じだ。それが……俺が『二人のエファロードの兄』として生まれた『十字架』なんだ。だから……ルナ達にこの事は黙っていて欲しい。そうしないと、あいつらは絶対に俺を止めようとするからな」
わたしには止められない。この意思を止める事など出来ない。他に選択などないのだから……それでも、
「……うぅ……それはわたしには難しいです!ハルメスさんは、ルナにとってもシェルフィアにとっても……この世界にとっても必要だから!勿論……わたしにとっても大切な方ですー!」
嗚咽交じりに懇願するわたしの肩を、ハルメスさんは優しく叩いた。
「……リバレス君。俺にとって、君やあいつらは掛け替えのない大切な存在だ。だからわかってくれ、『愛する者の為』ならば何でも出来るという事を。そして……リバレス君にもう一つとても重要な事を言っておかなければならない」
これ以上……まだ……何かあるのだろうか?
「……これは確定ではないが……もし、ルナが神と戦う事になり……神が消えた場合……『天界の維持』はルナの選択に委ねられる事となる。天界を維持する場合、エファロードは誰とも触れ合う事もなく……天界の全てを担わなければいけない。だがルナなら、恐らく俺の考えと同じで『維持』を終わらせるだろう。魂に於いて、人間と天使は同等……『別の界』に生きる必要もないからな……しかし、そうなった場合」
そこまで言って、ハルメスさんはわたしから目を逸らした。一体?
「……続きを聞かせて下さい」
わたしは彼を真剣に見つめる。しっかりと聞かなければいけない。そんな気がしたからだ。
「……天界が消えると……『天翼獣』も消える。……天翼獣は天界のエネルギーのみで存在し……生活しているからだ。そう……リバレス君は消えてしまう事になるんだ!」
わたしは眩暈がした。同時に何も考えられなくなった。ハルメスさんが死に……わたしも消える。それが想像出来なかったからだ。