お父さんは、変わり果ててしまったお母さんを直視出来ず……伏し目がちにそう言った。お父さんは、『治る』という一縷の希望で何とか理性を保っている。そんな感じだった。
「お母さん!お父さんの言う通りよ、今は無理しないで!」
私はそう言いながらお母さんの手を強く握り締める。そうしないと、お母さんが何処かに行ってしまいそうな気がしたからだ。
「……ふふ……あなたも……フィーネも心から愛してるわ。でもね……私はもう生きられない。それがわかるの……だから聞いてね」
お母さんは苦しい筈なのに微笑んだ。私達は、その強い心に言葉を失ってしまった。
「……初めに……私はとっても幸せだった。……あなたと出会えて恋に落ちて……こんなに可愛い娘を授かったわ。……あなたは優しくて真面目な人で、私達家族を何より大切にしてくれた。フィーネが生まれた時も、この家を建てた時も……あなたはずっと傍にいてくれた。……あなたに出会えて良かった。そして、誰よりも愛しています。……フィーネ、あなたはとっても思いやりのある自慢の娘よ。……よく言う事を聞いてくれて、私達両親をいつも想ってくれた。この前のプレゼント……嬉しかった。だから……だから」
そこまで話したお母さんは涙を流していた。
「……お母さん!」
「……お前!」
私とお父さんは同時に叫び、お母さんに縋りついた!
「……二人とも……大好き……誰よりも世界で一番愛してるから……私がいなくなっても……幸せになってね」
それが……お母さんの意識がある内に発した最後の言葉だった。
〜200年前、フィーネ17歳の誕生日〜
あれから3年ぐらいの月日が流れて、私は今日17歳の誕生日を迎えた。この日は朝から昼過ぎまで本を読んで勉強し、村に晩御飯用の食材を買い出しに行ってきた。お母さんが死んでしまって……家事は全部私がやるようになった。料理は、お母さんのレシピを読みながら悪戦苦闘の日々だったけど、お父さんは、『美味しい』って言いながら食べてくれる。お母さんがいなくなってしまって、初めは悲しくて寂しくて……お父さんも私も……食事すらろくに喉を通らない毎日を過ごしていた。でも、月日が流れて、お母さんの声を聞いたり顔を見たりは出来ないけれど、私達の心の中ではしっかりと生きている。そう思えるようになった。