「お願いします」
私は短くそう返答した。余り長時間ハーツと話はしたくない。
「『光の山』を知っていますね?ここから森を抜けて、『封印の間』を越えた所にそびえる山です。その山頂には、『白い聖獣』がいて『虹の輝水晶』を守っているようです。元々、虹の輝水晶は天使の持ち物。それを、白い聖獣から取り戻して欲しいのです。決行は……そうですねぇ。本日の授業終了から、明日の授業開始まで。それまでに私に宝石を渡せたら、『天翼獣の子供の養育』を認めましょう」
言っている事が滅茶苦茶だ……聖獣は、天使よりも圧倒的に強い力を持つ者。そして、光の山の番人……そんな『強大な者』から、宝石を奪え。彼はそう言っているのだ。欲しい物が手に入れば、私の命などどうでもいいのか?それとも、無理を言って私を諦めさせるつもりなのか?どっちに転んでも、彼にとって不利益は無い。そういう事なのだろう。しかし、
「……確かに約束しましたよ」
私はそう強く言い切った。その瞬間、彼の表情は驚きに変わったがすぐにまた元の非情な顔に戻る。
「約束です。今日は夜の外出と、特別に『オリハルコンの剣』の帯剣許可を与えましょう。但し危険が伴う為、一人で行くように。また、友人らにはこの事は口外しないように。宜しいですね?」
友人にも口外させない。それは、どこかハーツには後ろめたさがあるからだろう。結局は、自分の欲の為だと言っている事の証明のようなものだ。しかし、どの道私は友を危険に晒すつもりはない。
「わかりました。それでは失礼します」
私は、最後に一言そう言ってハーツの部屋を出た。
この日の授業は、全く耳に入らずセルファス達との会話も上の空だった。そんな様子をジュディアは心配そうだったが、話をする事は許されない。私は授業が終わると同時に、一人で真っ直ぐ部屋に戻ったのだった。
〜白い聖獣〜
「うわぁぁー……ん!」
部屋に戻ると、天翼獣の子供は泣いていた。私は急いでESGを与えたが泣き止まない。しかし、約束の時は刻一刻の迫ってくる。早く用意をしなければ……私は、オリハルコンの剣とESG、そしてお守り代わりにハルメスさんに貰った時計と本を持った。
「うわぁぁー……ん!」
……さっきよりも大きい泣き声。私は困った。すると……
「ガチャ」
私の部屋のドアが開いた。
「全く、リナリート君は何でも一人で抱えようとするから」
「その子は私達が見ているから、行っても大丈夫よ」