彼は私の成績及び授業態度に対して天才だと思っている。決して、私自身の人格を見ているわけでは無い。そんな神官ハーツに私は部屋に招かれた。豪壮な部屋だ……壁は全て大理石、机はオリハルコン……ソファに至っては、何らかの動物の毛皮で出来ていた。そして、彼の権威と力の象徴である『杖』には様々な宝石があしらわれている。神術のエネルギーを増幅させる力があるらしい。天界に殆ど存在し得ないその杖は全て彼の部屋にあった。
「なるほど……君は親のいない天翼獣を救いたいと。それが法律に違反すると知りながら」
事の顛末を聞いたハーツの表情が変わる事はなかった。彼にとって天翼獣の命などどうでもいい……という事か。
「私は何でもします!だから、どうかお願いします!」
私は机に額を押し付けた。このままでは、生まれながらに頼るべき者を失った彼女を救えない!
「普通は絶対に不可能です。しかし……君程優秀な天使がそこまでする覚悟があるのなら……方法が無い事もありません」
神官は冷笑を浮かべた。その裏には何が隠されているかはわからない。しかし、方法があるのならば私は何だってする!
「その方法を教えてください!」
私は椅子を立ち上がり、ソファでくつろぐハーツに近付いた。
「それは、『虹の輝水晶』を手にいれる事です。虹の輝水晶は、神術のエネルギーを最大限に高める宝石。天界にはごく微量しか存在しておらず、私でさえそれを所持していません。それがあれば、『天界を守る』私の力を高める事が出来ます。それは皆にとって最上級の幸せとなるでしょう」
ハーツはそう言い放った。『天界を守る』……神官ハーツが?罪の無い天使達に厳罰を与える者が……そんな者の力を増幅させる宝石を私が手に入れろと言うのか?しかし……あの子の命は掛け替えの無いものだ。それを見捨てる事は、命を軽んじる神官と変わらないじゃないか……しばらく私が考え込んでいると……
「さぁ、どうするのです!?私は忙しいのです!答が無いのならば、それはノーと取りますよ!」
少しの沈黙に苛立ったハーツが私を睨む。彼は自分の思い通りにならない事が何よりも嫌いだ。
「……やります!この身を尽くして、『虹の輝水晶』を神官ハーツ様に献上します」
私は必死の思いでそう言った。あの子を救いたい……その思いの強さがあったからだ。
すると……
「よろしい。それでこそ私の見込んだ天使です。早速ですが、『虹の輝水晶』の入手方法を教えましょう」
醜い笑みが浮かんでいた。全ては、自分の思い通り……その欲望を満たした顔だ。