「セルファス、ありがとう!そうするよ」
こうして親の天翼獣を手厚く埋葬した後に、私は生まれたばかりの天翼獣の子供を部屋に連れて帰った。まだ体の大きさは5cm程度だったが、少しでも元気をつけさせる為に私が今日摂取する分のESGを与えた。そして、水で体を洗った後に布で作った即席の服を着せた。すると、この子は安心したのか眠ってしまったので私も眠りに就くのだった。
そう、これがリバレスとの最初の出会いだった。
〜翌日〜
次の日の早朝、私はいつもより早く目覚めた。ハルメスさんに貰った銀の懐中時計が午前6時を告げている。
「大丈夫か?私がお前の世話を見られるように頼んでくるからな」
私は目覚めた次の瞬間に、言葉を喋る事は愚か名前すらない天翼獣の子供の頭を撫でながら呟いた。
「ん」
寝言のように音を発したこの子は女の子だ。生まれたばかりの無垢な顔で穏やかに眠っている。
「何も心配せずに、しばらく眠っていてくれよ」
私はこの子に微笑んだ。笑うのは久し振りだ……ハルメスさんが私の前から姿を消してから……そして無意味と思える学校が始まってからは、笑う機会が減ってしまったからだ。しかし、今の私はこの子を救いたい一心だ。そうする事で、私自身の心も救われるような気がするからだ。
服を着替え、窓際で育つルナ草に水をやり部屋を出たのはまだ7時前だった。
「これで良し」
私は部屋のドアの前にメモ書きを置いた。それはいつも迎えに来るジュディアに向けてのメッセージで、先に行くという内容のものだった。
午前7時半、私は学校内の神官ハーツ専用の部屋の前にいた。本来ならば、神官であるハーツには『様』を付けるのが妥当なのだが、私は彼を深く憎んでいる。幼い私からハルメスさんを奪った彼を!ハルメスさんと言い合っていた言葉の意味は当時はわからなかったが、彼の所為でハルメスさんがいなくなったのは間違いない。
「コンコンコン」
私は息を整えてドアをノックした。やはり、天界最高の権力者……そして裁きを実行する者の前では緊張する。
「誰ですか?こんな時間に?」
眠そうな顔はしているが、冷たく鋭い目をしたハーツが私の前に現れた。
「天使ルナリートです!本日はお願いがあって参りました!」
私は、深々と頭を下げながら声を張り上げた。彼には、最上級の礼儀を尽くさなければならない。
「おや、君は天界始まって以来の天才、ルナリート君ではありませんか。君が私に願い事とは一体どうしたのです?」