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 ハルメスは身動き一つ出来ずにそう言った。そして……フィアレスを獄界に『強制転送』したのだ。

「……ルナ、何とか追い払う事が出来たぜ……後は」

 ハルメスは……血を吐き……足を引きずり……歯を食い縛って……自分自身を転送した。

 

自分が生まれた意味を完遂させる為に……

 

〜狂気の再来〜

「本当にこの道で辿り付けるのかしらねー?」

 私達は、この時天界の地下を走っていた。ジュディアに天界の地下通路に転送されたからだ。

「大丈夫ですよ。今のジュディアさんは嘘をつくような目じゃなかったから」

 事実そうだった。泣き疲れた後のジュディアはまるで子供のような素直な天使になっていたからだ。

「それもこれもシェルフィアのお陰だ。先を急ごう!」

 この地下通路は『封印の間』に直結しているらしい。この道を通らなければ、天界にいる全ての天使を敵に回していたことだろう。

「はーい!行きましょー!」

 私達は暗い地下を走り続けた。封印の間にいる神に会う為に!

 走り始めて数時間……やがて眩い光が飛び込んできた!

「出口だ!」

 私達は、地上に出る階段を一気に駆け上がった。

「懐かしいわねー」

 ここは……『封印の間』の門前の噴水……かつて、セルファスとこの場所まで競争した事がある。そういえば、この事件がきっかけで私は神官と対立する事になったんだな。そして、遠くには神殿が見えた。生まれてから天界を去るまで暮らしていた神殿……

 その故郷は夕焼け雲に覆われて、雄々しくそびえたっている。さらに、鏡のように磨かれた大理石が紅い光を反射して……まるで私の帰郷を喜んでくれているような気がした。

「ここが……ルナさんとリバレスの故郷……とても綺麗な世界ですね」

 完璧な直線で構成された建造物……道……そして、森さえも狂いなく整えられている。

「まさか、こんな形で戻ってくるとは思わなかったよ……でも、この場所に長居すれば他の天使に見つかる可能性がある。私達は敵と思われているんだ。目的を遂げる為に……急ごう!」

 シェルフィアとリバレスは遠い景色を眺めていたが、私の言葉を聞いて封印の間への道を急いだ。

 門を開け、中庭を走りぬけ……封印の間のすぐ傍まで来た時、この場所には不釣合いな景色に私達は足を止めた。

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