と、リバレスは唐突にフィーネに尋ねた。
「そこは……その場所から、魔物が現れてくるって噂なんです。だから、誰も近付けないんですよ」
フィーネは身震いしながら言った。その場所はよほど恐ろしい噂でもあったんだろう。
「いずれは魔物を倒しに、そこへ行かなければならないかもしれないな」
私は剣を握り締めて、フィーネに微笑んだ。
「はい!私はルナさんとリバレスさんが行くなら何処へでもお供しますよ!」
身の危険も恐れない。相変わらず、強い女性だと私は感心していた。そして、私達は瓦礫の中を船着場へと歩いていった。
船着場には船が三隻見えた。どれも似たような作りで、全て木造の帆船だ。全長は10m位の小型船だった。
「さぁ、行きましょう!」
フィーネは真っ先に船に乗り込む。天気は快晴、出航日和だ。吹き寄せる風と潮騒が心地良い。
「待てよ、あんまり急ぐと危ないぞ!」
と、走るフィーネを私は心配して注意した。
「大丈夫ですよー!」
彼女は振り向きながら笑顔で駆けていった。
「まだまだ、子供ねー」
と、横でリバレスが腕組をしながらウンウンと頷いている。
「お前も子供だろ?一緒に飛び回ってこいよ」
私はリバレスの頭をポンポンと叩く。
「ムカッ!でも、たまには飛び回るのもいいかもねー!」
子供扱いに腹を立てながらも、リバレスはフィーネと共に遊んでいた。平和な光景だ。私はその間に、錨を引き上げて帆を張った。この二つは人間界の船を扱う人々を見て覚えた事だ。陸からどんどん離れていく。
「さて、フィーネ。操縦は頼んだぞ」
私は走り疲れているフィーネの肩を叩いた。
「えっ!ルナさんが操縦してくれるんじゃないんですか!?」
フィーネは呆気に取られた表情を見せる。
「天使だった私が、船を運転出来る筈がないだろ?」
「えーっ!?それじゃあ、リバレスさんは!」
フィーネがリバレスの方を向いて叫ぶ。
「こんなに小っちゃいわたしに船の操縦なんて出来る訳無いでしょー!」
「でも、変化したら?」
フィーネが尚も食い下がる。
「変化は疲れるのよー!それに変化した所で、操縦技術は無いから無駄なのよー!フィーネ、冗談はやめて早く運転してよねー」
リバレス、珍しく真顔でフィーネにそう言った。
「えぇーっ!そんなぁ!単なる村娘が船の操縦なんか出来るわけないじゃないですかぁ!」
と、フィーネは必死の形相で叫んだ。