と、私はマスターに銀貨を渡した。この一連のやり取りはフィーネに教わったもので、酒場で銀貨を渡すと情報を仕入れられると聞いていた。
「毎度、何にする?」
と、マスターは酒の種類を訊いているようだった。人間界の酒など、飲んだことがない。どうするか?
「(一番高そうなやつにしといたらー?安物は、ルナの口には合わないわよー)」
と、さり気なくリバレスが私に助言した。
「じゃあ、ここで一番美味い酒を頼むよ」
と、マスターに言うとすぐにその酒は出てきた。
「『恵みの雨』っていうこの土地原産の白ワインだよ!最高の味さ」
私は、それを恐る恐る啜ってみた。思ったよりも、美味だったので驚いた。
「確かに美味だがアルコールが弱いな」
と私は正直な感想を述べた。天界でたまに振舞われる酒は、とても美味でアルコールも遥かにきついからだ。
「兄さん、酒に強いみたいだねぇ……このワインは度数が20だよ」
と、マスターは久々の客に少し嬉しそうだったが、ここで時間を費やすわけにもいかない。
「それはそうと、この街の状況について教えてくれ」
と、私は本題を催促した。
「そうだね……この街は、数ヶ月前から急に病気が流行り始めたんだ。原因は不明なんだが、森で作業する人間から病気に感染し始めた。森には畑や果樹園があって、この街の主要産物がそこで生産されているんだ。不思議な事に、森に行かない者は感染しないんだが、何せこの街から森を無くすとみんな飢え死にしてしまう……だから、森に入らないわけにはいかない。みんな、原因は森の中の何かだって事は知ってるんだけど、はっきりとはわからない。病気にかかると、段々体が弱り……痩せていって、体の中からボロボロになって苦しみ抜いて死んでしまう……俺も、そろそろ商売をやめて別の街に行こうかと思ってるんだ」
と、諦観の境地にいる人間の顔だった。だが、私には何となく答えが見えてきた。
「森はどこにある?」
私は単刀直入に訊いた。
「街のすぐ南だよ。まさか行く気じゃないだろうね!?死ぬぞ!」
マスターは叫んだ。その様子から、病の恐ろしさが感じ取れた。
「いや、訊いてみただけだ。ありがとう」
そう言い残して私は店を後にした。
「(わかったのー?ルナー。)」
と、リバレスの声が頭に響く。
「(ああ。恐らく、森で魔が毒を撒いているんだろう。上手く人間に見つからないようにな……その賢さから推察して、残酷で手強いぞ)」
と、私の推理を打ち明けた。