〜レニーの街〜
私達が街の入り口に入ろうとすると、そこに中年の男が酒を飲みながら樽の上に座っているのを見かけた。年は50前後だろうか?
「……若いの……言っておくが、この街には入ってはいかん。すぐに立ち去るんだ」
男は、酔いで顔が赤くなりながらも私達に声をかけた。呂律が回っていない。
「なぜだ?魔物が襲ってくるとでも言うのか?」
と、私は訝しげに問いかけた。
「いいや……もっと恐ろしい事だ。病……死の病が!」
「病気!?お母さんが死んだあの病気かも!?……原因を突き止めないと大変なことに!」
フィーネの顔が不安に染まった。確かに、街には活気が無い。入り口から覗く街は死んでいるようにひっそりしている。
「……病にかかり死ぬのはお前達の勝手だが……わしは止めたからな」
と男は不吉な言葉を投げかけて、黙り込んでしまった。
「どうするんだ?」
と私は、思い詰めた様子のフィーネに問いかけた。
「もちろん病気の原因を探すんです!私……ちょっと街の様子を見てきます!」
と言うや否や、彼女は霧と毒気に覆われた街の中へと走っていった。
「な……おい!待てよ!フィーネ!」
その言葉が届く前に、フィーネの姿は見えなくなっていた。
「……(全く……これだから人間は!)」
とリバレスの声と呆れ顔が脳裏に浮かんだ。
私とリバレスも仕方なく、街の様子を調べてみる事にした。街に入ると、まず人の気配がほとんど無い事に気付いた。さらに、霧と雨に包まれているこの街は重々しい空気を作り出している。手始めに酒場へと向かった。全て、木で作られた酒場はいい具合に色褪せて、その歴史の長さを物語っていた。看板には、『ようこそ、豊作の街レニーへ』と書いてある。
「カランカラン」
入り口の扉を開けると、乾いた音が鳴り響いた。
「いらっしゃい」
奥で、マスターの気弱な声が響いた。
「この店に客はいないのか?」
と、私はマスター以外に人が見当たらないので訊いてみた。
「そうだよ、今みたいに街が毒で呪われている時にはみんな酒場になんて来ようとしないんだ」
と、マスターは溜息を漏らした。
「それを詳しく教えてくれないか?」