遠い目で、ハルメスさんはそう語った。その淡々とした口調の中に隠されている強い意志を私は感じた。
「……そうだったんですか。僕もその気持ちは少しわかります」
私は、横にいるフィーネを見ながらそう答えた。私も、フィーネの命の為ならば『天使の資格』など安く感じるだろう。
「なるほどな。本当に、お前は俺にそっくりだよ。強い心を持った顔つきも……考え方も……隣には人間の女性もいるしな」
ハルメスさんは、目を細めて私とフィーネを見て何度も頷いていた。
「僕はハルメスさんを目標にして生きてきましたから。でも、僕は、堕天の200年が終わればきっと天界に帰ると思います。僕は、この世界で永住出来る程の強い心は持っていないですから」
私は少し俯いて、謝るようにそう言った。200年後にはきっとフィーネはいない。だから、きっと元の世界に戻るだろう。
「いいんだ。お前に永住なんて強制出来はしないさ。でも、200年なんてあっという間だぞ、経験者の俺が言うんだ。それはそうと……そちらの女性と、お前の指輪に変化している天翼獣も紹介してくれないか?」
この人は、昔から鋭かった。この人の前では、隠し事なんて何も出来はしない。
「フィーネです。ミルド村から来ました。宜しくお願いします」
そう言って、困惑顔をしているフィーネは深く頭を下げた。
「(何でわかるのよー!?)リ……リバレスです。初めまして」
元の姿に戻って、驚いた顔をしながらリバレスは躊躇いがちに挨拶をする。
「はっはっは……いい仲間達だ。お前も、今は人間界が楽しいだろうなぁ」
私達の様子を見たハルメスさんは嬉しそうに笑った。
「はい、思ったよりもずっといい世界ですね。それに、僕は今『魔』と戦っています」
私は、チラッとオリハルコンの剣の柄を見せた。
「ああ、お前の話は聞いていたよ。会いに行きたかったけど、俺はこの街に結界を張ってるから、なかなか離れられなくてな」
確かに、この街には巨大な結界が張られている。あれ程の力を維持するんだ。離れられないのも無理がない。
「そんな事は気にしなくていいですよ!今、こうして再会する事が出来たんですから!」
私は、思わずそう声を上げた。会える筈の無い人に会えたんだ、理由なんてどうでもいい。
「ははっ!そうだな。今日は、宴会にしよう!神殿の者達に用意させるから、お前達は来客用の部屋でゆっくりしていてくれ!」