「パキィィーン!」
そう思った瞬間だった。まるで、ガラスが砕けるような音がして私を絞める力が弱まった!即座に私は振り返る!
「フェアロット……サマァァ!」
すると……そこには意味のわからない断末魔と共に、魔が氷の彫像と化して砕け散っていく姿があった。フェアロット?
誰の事だ?いや、それよりも今の魔への攻撃は!?わからない事が重なって……私が呆然としていると、既に先程の殺気は
完全に消えていた。すると、私は殺気の正体に意識が集中した。
「……私を守ったのか?これは、高等神術『絶対零度』?」
完全に、魔のみを狙った攻撃だった。この凍り具合といい、エネルギーといい……神術の『絶対零度』の跡に酷似していた。しかも、こんなにも狭い範囲でここまでの力を発揮出来る者は、皆無に等しい……リバレスは高等神術を使えないし、私でさえここまで正確に……完璧な氷の神術の発動は出来ないのだ。炎を操る神術には自信があるのだが。
「いや……それよりも……私とリバレス以外に神術を使える者がいるのか!?」
私は思った事を、無意識に口にしていた。それ程の驚きだったのだ。完全無比な氷の神術……
「まさか……いや違う!」
脳裏に一筋の推測が立ったが、私はそれをすぐに打ち消した。それを真実にすると恐ろしい事になるからだ。
私は、さっきの怪我をした船員を医務室まで運んでから戻る事にした。幸い……時間が早い所為もあって、人間離れした戦いを見た者はいなかった。気がつくと、午前7時前になっていて日が昇り始めた。嵐はほとんど収まって、船は安定した旅を続けられそうだ。
部屋に戻ると、泣き出しそうなフィーネが私に飛びついてきた。
「ルナさんっ!心配しましたよぉ!」
私に抱きつき、フィーネは号泣した。余程、心配だったんだろう。私は、頭を優しく撫でる。
「約束したじゃないか……心配かけてごめんな。リバレスもありがとうな」
テーブルの上に座っているリバレスもうっすらと涙を浮かべていた。きっと、私の肩にでも飛んで来たかったのだろうが、フィーネがいるので我慢しているようだった。この日は、一日中『殺気』の正体を考えていて上の空だった。