ジュディアは思わずそう叫んでいた。私達も驚きを隠せない。何故なら、普通の力の強い大人の天使が本気で殴っても、せいぜい5000ポイントが関の山だからだ。セルファスは一体何者なんだ?
「見たか、ジュディア!そしてルナ!力は俺がトップだろ!?」
そう高笑いするのも無理は無かった。全てにおいてエリートのジュディアでも8890ポイント、秀才のノレッジは4200、リバレスは2800とセルファスには遠く及ばなかったからだ。
そして、私の番が来た。
「ルナ、怖気付いたんなら止めてもいいんだぜ!」
セルファスは、勝ちを確信したかのように私に降伏を煽っている。勝てないかもしれない。だが、私は勝負すると言った以上止める訳にはいかないのだ。
私は、装置の前に立ち拳に力を集中した。力を一点に集中するのは初めてだが、恐ろしい程の力が拳に流れ込む。
次第に拳は強力な光と熱に包まれた。私は恐ろしくなってそのまま拳を前に突き出す!
「ドゴーン!」
という耳を塞ぎたくなる程の轟音と、立っていられない程の振動で『力の間』は揺れていた。結果は……
「46800ポイントー!?」
セルファスは驚愕の余り、叫んだ直後にその場に崩れた。他の皆からは声も出ない。
私は一体何者なんだ!?拳に力を込めただけなのに……。例のテストだってそうだ。私が998点だったのは、一問だけ私が問題を解かなかっただけに過ぎない。
私は他の天使とは違う……。何もかもが!まるで……姿形だけ似ている別の生物のようだ。
束の間の沈黙の後、ジュディアは急に歓喜の声を上げた。
「さすがルナ!私が見込んだだけはあるわ!」
それから一呼吸おいて、セルファスが再び口を開いた。
「……力でも無理かよ……やっぱ、ルナは特別過ぎるぜ!」
彼は諦めの表情とは別に、非常に悔しそうにしゃがみこんだままで地面を叩いていた。それを見兼ねた秀才ノレッジが言葉を発する。
「セルファス君、仕方ないですよ。ルナリート君は、天界始まって以来のエリートって言われてるんですから」
ノレッジは内心、セルファスが私に勝つことを期待していたのだろう。
私は今までこういう勝負の度に『ルナは特別だから』と言われ続けてきた。私には正直、この言葉は悲しい。何故なら、『私は普通じゃない』という現実と孤独感に苛まれるからだ。
私の心中を悟ったのか、リバレスが笑顔で話し始める。
「もうー!みんなしてそんなにびっくりした顔してー!ルナが凄いのはみんな知ってるでしょー!」
「(おいおい、気持ちは嬉しいけどフォローになってないぞ。)」
そして、その言葉のお陰かどうかは解らないが、セルファスが再び元のプラス思考の明るい奴に戻った。
「チッキショー!またも、ルナにしてやられたぜ!こうなったら意地でもルナに一つでも勝たねぇと気が済まねー!ルナ!?無論受けて立つよな!?」
私は、セルファスのいつも通りの態度が嬉しかった。
「ああ。何でも来い。どんな勝負内容でも受けるぞ」
セルファスは、私の言葉を聞いて口元に不気味な笑みを浮かべた。
「勝負は今晩、11時に『封印の間』までの道程を競う!」
「『封印の間』だってー!?」
全員が声を揃えて、その言葉に驚きを示した。それもその筈だ。
『封印の間』とは天界において最も神聖な場所で、『神』が存在しているといわれている場所だ。無論一般の天使は其処に近付くことは出来ない。其処に行けるのは『神官クラスの天使』だけだ。
具体的には、今いる『力を司る間』の司官。その他、『命を司る間』、『死を司る間』、『神術を司る間』のそれぞれの司官。そして、その司官達の上に立つ神官ハーツの計五人である。
だから、一般の天使が其処へ行くのは、最悪の場合極刑を意味する。
「止めときましょう!ね!?ルナ!」
「そうですよ!セルファス君、それはあまりに無茶ですよ!」
ジュディアとノレッジの二人は怒涛の如くセルファスの言葉に反論した。
「俺はルナに聞いてるんだ」
彼は私の目をじっと見据えて反応を待っている。此処で断れば、先程の『どんな勝負内容でも受ける』という約束が覆ることになる。
「解った。受けて立とう」
私の答えと同時にリバレスが口を挟む。
「ちょっとー!ルナー!」
だが私は、物言いたげなリバレスを静止して、セルファスの目をじっと見据えた。
「よーし!それでこそルナだ。勝負内容は、夜11時っていう外出厳禁の時間帯で、更に立ち入り禁止の『封印の間』へ近付くっていう危険な勝負だぜ。誰にも見付からずに、『封印の間』の門前にある噴水からより早く水を汲んできた方が勝ちだ。普段なら衛兵に見つかって即捕まるけど、今日は100年に一度の不吉なレッドムーン(赤い月)の日。今日は絶対誰も外出しねー筈だ」
セルファスはいつもとは違う真剣な顔で語った。恐らくはこの命懸けの勝負に対する覚悟の重さの現れだろう。
「……いいだろう。今夜11時に勝負だ。リバレス、ジュディア、ノレッジは危険だから部屋に戻ってるんだぞ」
その言葉に真っ先に反応したのはノレッジだった。