【第六節 此処にいるという奇蹟】 会議終了から二週間が経過した。 晴れ渡る空の下、私はシェルフィアを抱えて世界を飛び回っている。人間界の現状をこの目で把握し、空から襲来するかもしれない魔の飛行ルートを予測する為だ。 飛行中どの街を通りかかっても、男は武器を用いた戦闘トレーニングを行い、女と老人は防壁と避難経路を懸命に造っている。そして、子供達は学校で勉学に励んでいるのが見える。 私が今すべき事は、全体の進捗管理と『転送』の聖石作成だ。それ以外には自分自身の鍛錬や、魔の飛行ルートを予測し、適切な迎撃方法を立案しなければならない。 「次はリウォルね」 高度数百mで私の腕に抱えられたシェルフィアが、柔らかな金の髪を風になびかせながら言った。 現在地はルトネック。200年前に魔の襲撃で滅んだが、現在では復興している。漁業が盛んな街だ。 「そうだな。ここからだと、南西に500kmある。近くまで『転送』で移動しよう。しっかり掴まってるんだぞ!」 「うん。大丈夫よ」 「転送!」 言葉と共に、目の前の景色が塗り替えられる。瞬き一つ終えるとそこはもうリウォルの上空だった。 「あっ、見つかっちゃたみたいよ」 シェルフィアが微笑んだ。 「本当だ。最近はすぐに見つかってしまうな」 私も笑顔でリウォルの街に視線を送った。人々は私達を見つけて、嬉しそうに手を振っている。 「皆さん、頑張って下さいね!」 シェルフィアが私の分まで手を振る。私は両手で彼女を支えているから手は振れない。 「大丈夫です!順調です!」 そんな頼もしい声が返ってきた。リウォルはフィグリル皇国に続いて、世界第二の都市だ。そして、科学技術の中枢であり、今回の戦いの武器製造を殆ど一手に請け負っている。 また、半年後に私が使用する剣の開発も依頼した。オリハルコンの剣では、エファロードの力を支える事が出来ない。ノレッジなら、もっと耐久力の高い剣を造り出してくれる。それを見込んでのことだ。 リウォルでも、戦闘トレーニング、防壁及び避難経路の構築が急ピッチで行われている。それは他の街と同じだが、驚いた事に、リウォルでは高射砲と大砲までが街の至る所に設置され始めていた。 「ルナリート君!」 眼下でノレッジが手を振っていたので、私達は街へと降り立った。光の翼を消す暇も与えず、ノレッジは興奮気味に言った。 「剣の強度を増す術を見つけました!」 「本当か!それは有難い」 ノレッジに案内され、私達は研究所の一室に辿り着いた。 「レンダー、説明を頼みます」 「わかりました」 ノレッジと恋人レンダー。仲はとても良さそうだが、人前では敬語で話すようだ。それより、病気だったレンダーが完治し、ノレッジと共に仕事が出来ているというのは素晴らしい事だ。 「皇帝、私達はオリハルコンの剣を一旦超高熱で融解させました。そして、新たなる剣の原型を造り出したのです。これをご覧下さい」 まだ、刃は研がれていないが純粋なオリハルコンで出来た剣だ。だが、柄と刀身の数箇所、一直線上に小さな孔が開いている。 「この孔に秘密を仕掛けるのか?」 私がそう言うと、ノレッジとレンダーは顔を見合わせた。似た者同士だ。その様子に、私とシェルフィアも顔を見合わせて笑った。同様に、ノレッジ達も笑い出す。暫く笑った後、レンダーは再び話し始めた。 「思わず笑ってしまい申し訳ありません!はい、そうです」 「そこに、聖石を埋め込むんですよ!」 二人の目が輝いた。成程……考えたな。 「強力な神術を込めた聖石を埋め込む事により、剣の強度が上がるという事だな」 「その通りです!でも、通常の聖石にはルナリート君の強力な神術を込める事は出来ません。『虹の輝水晶』から造られた聖石でないと……。何処にあるかはわかりませんが」 | |
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