〜信念を胸に〜 ここは、獄王……僕の宮殿のバルコニーだ。眼下には数万、数十万……いや数百万の魔が集っている。そう、僕の出発を見送る為だ。 「今から、我は人間界をお前達の住む理想郷に変える為……戦ってくる!次に我がお前達の前に姿を見せる時は、切望が現実に変わる時だと思え!」 僕が剣を頭上にかざしてそう叫ぶと、獄界の大地、空気が全て振動する程の群集の歓声が返る。自分を『我』と称するのは、代々の獄王と同じ口調で話す事によって皆を鼓舞する為だ。 「うぉぉ!」 熱気が空間に満ち溢れる中、僕は続けた。 「この星で覇権を得るのは、ロードではなくサタン……人間ではなく魔だ!光も闇も……我々が手に入れる!お前達、備えておけ!すぐに移住できるように!」 「うぉぉ!」 そして僕は皆に向かって不敵に微笑み、バルコニーから宮殿の中へ戻った。 「フィアレス様……どうかご無事で!私は、理想郷より何より……貴方様が無事に此処へ戻る事を切に願っておりますので!」 僕の前に跪き、手を合わせて目を閉じている。これは祈りだ。僕の無事のみを願う彼女の心からの…… 「解ってるよ。人間界を制圧し、僕も無事に帰る。だから……何も心配せずに待っていてくれればいい」 僕は彼女の頭を撫でた。そして、意識を集中した。背中から闇の翼が現れ、体が闇物質の鎧に包まれる! 「信念を胸に……必ず勝利する!」 僕は、彼女に微笑んだ。そして、バルコニーから飛び立ち魔の目の前で転送を使った! 人間界に向けて、視界が高速で移り変わる!僕という存在が人間界に到達するのはもうすぐだ。だが! 「バチバチッ!」 激しい衝撃と共に転送が途中で阻まれる!ここは、人間界の地上まで後数百mの地中だ。止まった視界の中で僕は言葉を発する。 「結界か……ルナリートが作ったみたいだけど、僕にこんな物が通用するとでも思っているのか!?」 僕は、魔剣を抜いた。魔剣、これは獄王の為に、自らの命を捧げた者達の魂が宿る剣。獄界最強の剣だ。 「貫いてやる!」 僕は剣に精神力を込めた!魔剣は僕のエネルギーを吸い取り、目に見える物全てを闇に変えてしまいそうな漆黒を呈している。そのエネルギーは僕を囲む周りの土や岩を融解させ、溶岩へと変える!その溶岩が僕の足元に溢れ始めたその時…… 「エファサタンのみが使える魔術……『闇海(Dark Sea)』を剣に乗せて放つ!」 「キュイィィー!」 空間が激しく振動し、僕の周りから消えていく!この高エネルギーの中では、溶岩は愚か空気でさえも存在する事を許されないからだ! 「人間界の空まで貫け!」 「ゴォォ!」 闇海を乗せた剣の波動は、土も岩も空気も飲み込み、人間界の地上への障壁を洗い流していく!そして! 「カッ!」 眩しい!今まで生きてきた中で、見た事の無い強い光が、地上に開いた穴から差し込んだ。そうだ、これがS.U.Nの光なんだ。獄王としての記憶にあるS.U.Nを僕は思い出した。フィアレスとして見るのは初めてだったのに、懐かしさで胸が詰まる。僕は光が射す方へ全速力で飛んだ! 「ここは」 古びた街……いや、天界の遺構に間違いない。壁も床も大理石。そして所々、神術で動いていたであろう照明機器が見受けられたからだ。ルナリートはこの場所に天界を融合させた。それは、かつてこの場所には獄界への道があり、それを完璧に塞ぐ為だったのだろう。 僕は、S.U.Nの光を浴びて爽やかな風を受けながら歩き、そう考えていた。 「何て居心地の良い世界なんだ」 視界は光に満ち、微風が髪を撫でる。細波が木霊し、鳥が歌う。その風景に暫く身を委ねそうになったが、そんな場合じゃない! 「この美しい世界を魔の楽園にする為に、ルナリートを倒す!」 自分に強く言い聞かせる為に、剣を握り締めてそう叫んだ。 その後、僕はまず『人間』を全て眠らせる事にし、広範囲に眠りを齎す獄界の植物を召喚した。ルナリートは人間の為に力を発揮する。かつて獄界に来た時は、フィーネというたった一人の人間の為に魔を薙ぎ倒し、僕を倒し、そして父の影さえも破った程だ……だから、人間は死なせないように眠らせるのが戦いの邪魔にもならず都合が良いと考えたのだ。 この時はまだ知らなかった。 自分の選択した道が招く未来を。呼び寄せる『存在』を…… その『存在』は、『歴史の闇』に葬られ記憶にも封印がされてきた。 ルナリート、そして僕は今までのエファロード、エファサタンとは全く違う選択をした。 自分の信じる未来の為に生きるという選択を……先代まで脈々と継がれてきた生き方を放棄する選択を…… その代償が『存在』だったのだ。人にも魔にも、生物にさえも属さない『存在』…… 僕は理解した。ルナリート達が信じる 『Luna』……星が終焉に向かう中で 僕達は自分が生きる意味を理解して | |
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