【第三節 衝突する光と闇】 聖域の中で立ち竦む私達に、フィアレスは語った。兄さんとの戦いで、殆ど動く事も出来なかった事。先代獄王の死……そして力と記憶の継承。私を倒し、この世界を奪うという結論! 「これ以上、話す必要は無いよね」 フィアレスは一筋の光すらも反射しない魔剣を私に向けた。 「あぁ。私達が今すべき事は」 己を真とする為に戦う事だ! 「ガキィィー……ン!」 その瞬間、剣と剣が眩い火花を散らした! 「(お前が、もし兄さんに致命傷を負わせていなければ……兄さんは死ななかったかもしれない!獄界への道を封鎖するエネルギーを消耗しても……生きていたかもしれない!)」 「(そうかもしれないね。でも、少なくともハルメス・ジ・エファロードはこうなる事を解っていた。命懸けの戦いにおいて、『もし』という言葉は存在しない!在るのは、強い力と意思を持つ者のみが生き残るという結果だけだ。僕も胸を貫かれて死の淵を彷徨い、獄王を継承するまでは、指先一つ動かすのが死の苦しみに等しかった。)」 互いに意識を転送しながら、無数の刃を繰り出す!その攻防の衝撃だけで、聖域の建造物が消し飛んでいく。この衝撃を受ければ、一番力の弱いリルフィにとっては致命傷となるだろう。 「(シェルフィア、リルフィを連れて離れろ!ずっと傍にいる約束はしたけど、リルフィには危険過ぎる!)」 「(わかったわ!リルフィを安全な場所に連れて行ったら、いつでも加勢できるようにしておくから!)」 私は頷いた。そこに間髪入れず鋭い刃が私を両断しようと襲い来る! 「パキィィ……ン!」 咄嗟に防御はしたが、オリハルコンの剣が魔剣に圧し負けている!刃に細かな亀裂が走った! 「(エファロードともあろう者が、自分の責務を放棄して独善的な幸せの為に生きるなんてね!)」 フィアレスが漆黒の翼を広げて空に舞い上がる! 「(ならば、此処にいるお前はどうなんだ!?獄界の維持、深獄の封印、魂への干渉はどうなる!?)」 私もそれを追って飛び立った! 「(僕は君と違って、獄界を放棄などしていない!この世界を手に入れて、魔の住む理想郷にすれば良いだけの話だ!深獄の封印は、今は最低限やっている。君を倒したら、本気でやるさ!)」 「ゴォォ!」 意識の遣り取りの間に、空間が消失する程、高エネルギーの炎が交錯する! 「魂への干渉は、私と同じく必要ないと考えたみたいだな」 「愚問だね」 私は理解した。私と表裏一体の存在……フィアレス・ジ・エファサタンは、私と同じく自分の信じる道を切り開く覚悟を持っている事。その為には、自分の命を懸ける事も厭わない事。そして……やはり二つの存在は、相容れない事! 「ロード、サタンが築き上げた歴史を破壊し、混沌を生み出したルナリートに死を!」 その瞬間!空を暗雲が覆い、海が黒に染まる!そして…… 「ゴゴゴゴ!」 黒い稲光がフィアレスに集り……闇物質の鎧に更なる力が漲る!それは、私……否、俺が獄界で会った先代獄王の影を遥かに凌ぐ力だ。 「その姿……エファサタンが戦いにのみ力を注ぐ完全なる戦闘態勢。久方振りだな。ルナリートでは無い、遠い記憶の中でさえそれを見たのはごく僅かだ。だが……俺は、お前に負ける訳にはいかない。この世界は大切な者の犠牲で築かれた!俺には、愛する者を守る義務がある!」 「シュウゥゥ!」 俺の体を禁断神術『滅』で覆う!これは、外部からの攻撃を無効化するエファロードの鎧だ。そして、この鎧の表出はエファロードとしての力の完全解放を意味する。 「それは滅鎧……それでこそ僕の対称となる存在だ。そして、今こそサタンとロード……どちらが正しいか証明する時だ!」 俺の意識、フィアレスの意識にもロード、サタンとしての本能が駆け巡る! 長らく待ち侘びた戦いだ。俺(僕)を失望させるなよ! 「始まりの神術……『光(sunlight)』!」 「終わりの魔術……『闇海(darksea)』!」 最初から手加減などしない!相手が本気の状態で、手加減などしたら瞬時に命を落とすからだ。 「キュイィィ!」 「ゴゴゴゴゴォォ!」 物質の存在を許さない程の光熱が空を覆い、星を細かに振動させる!同時に闇の波動が海を変質させ、宇宙空間まで届く程の波となり俺の前に立ちはだかる! ロードが勝つ! サタンが勝つ! その瞬間!光と闇が衝突した!光は闇の海を貫き、消滅させる!そして、逆に闇の海は光を飲み込む! 「(相変わらず凄まじい闇エネルギーだな!)」 「(ふん、そっちこそなかなかやるね!)」 そして! 「ガキィィーン!」 激しく剣がぶつかる!俺達は光と闇海を発動させながら、同時に『転送』を行い剣を振るったのだ! 「考える事は同じだね!でも、そんな剣で僕に勝てるとでも思っているのか!?」 「キキキキンッ!」 確かにフィアレスの言う通りだ!俺の剣は、オリハルコンの剣……魔剣相手では荷が重い!力を継承したロード、サタンが全力で振るう事が出来る剣は、神剣、魔剣だけなのだ! 剣に力を集中する俺達は、光と闇海の発動を停止した。 「ゴォォ!」 その瞬間、空を覆う光熱は消え……天に突き刺さるかのように盛り上がった海は力を失い、巨大な滝となってあるべき場所へ落ちていった! 「これでどうだ!」 「ギィィンッ!」 フィアレスの渾身の力を乗せた剣が、俺の頭に振り下ろされる!俺は咄嗟に剣先と柄を両手で持ちそれを防いだ! 「クッ!」 腕が痺れ、剣には再び亀裂が走った。このままでは、剣が折れてしまうだろう。だが神剣が無い今、俺はこの剣で戦うしかない! 「キンッ!」 「ガキンッ!」 「ブシュッ!」 絶え間無く続く刃の応酬! 「キュイィィ!」 「ゴゴゴゴゴォォ!」 瞬きすら許されない程、高速で強力な術の発動!剣と術での攻防で、空は割れて海は干上がっていく!俺達が戦っている空間はエネルギーの衝突で超高熱を発していた!そんな戦闘の中で、致命傷には至らないながらも傷は際限無く増加していく! そして、星を激しく揺さぶる程のエネルギーを集約してフィアレスが叫んだ! 「平和呆けで弱体化していると思っていたのに上出来だよ!でも、これで終わりだ!」 突如辺りが一寸の光も通さぬ闇になったかと思うと、その闇が奴の剣に吸収されていく! 「完全なる闇剣か!」 終わりの魔術『闇海』のエネルギーを剣に注ぎ込み、それを一閃にして放つ究極の剣技だ。これに対抗するには、神剣に『光』を込めて放つしかないが今はそれが出来ない。だからと言って、オリハルコンの剣に『光』を込めればその瞬間に粉々に砕け散るだろう。ならば! 「始まりの神術『光』で剣を保護し、その保護膜上に『光』を込める!」 勝負は一閃で決まる。俺達は互いに間合いを取り、剣に意識を集中させた! 「キイィィ!」 「シュウゥゥ!」 神であるエファロード、獄王であるエファサタン……二つの生命が意思を持ち始めた時から続いてきた戦い。幾度と無く衝突し、何度世代が交替しても変わる事の無い思い。己を真とし、相対する者を偽とする証明の為に争ってきた。今まで小競り合いは幾度もあったが、力を解き放たれた状態で相手を全力で滅する為に戦うのは星が三界に分かれた20億年前以来だ。今こそ、長き戦いに終止符を打つ! 「光剣!」 「闇剣!」 「ピカッ!」 音速を超えた光速の一閃が交叉する! 「ドゴォォー……ン!」 光と闇の一閃が交叉する波動で、結界が張られた聖域を除く、半径数キロに渡る全ての物質が消し飛んだ!否、視界から全てが消えたと言っていいだろう。 「(一体どうなった!?)」 自分に何が起きたか理解するより前に、先に意識が脳を駆け巡る。 「ブシュゥゥ!」 そうか……闇剣が滅鎧を貫通して、腹部に到達したのか……内臓にも損傷がありそうだ。血が止まらない。 「パキンッ!」 俺の視界が歪んで行く中……フィアレスの鎧が砕けるのが見えた。 「ははっ!鎧は砕かれたけど、僕の勝ちみたいだね!?」 勝利に歓喜するフィアレス、だが…… 「ブシャァァ!」 先刻の一閃で、かつて兄さんから受けた胸の傷にクロスするように新たな傷がつき、そこから勢い良く鮮血が噴き出ていた。 「……僕も無傷ではいられなかったって事か」 深手を負った俺達は、共に聖域へと落ちて行く…… だが、起き上がり先に剣を取った方が『真』となるのは間違いないだろう。 | |
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