「セルファス……お前は」

 私は倒れているセルファスを抱き起こす。

「……ジュディアが、お前の恋人を殺した時……俺がその場にいたらな……って思ったんだ。あいつはお前にとって許せない事をしたが、俺はジュディアが大切だ。お前が、ジュディアを消そうとした時……俺なら守ってやれるか試したかったんだ。あいつは、本当にひどい事をしたな。許せないだろうが、俺が謝る。すまない」

 セルファスは息も絶え絶えにそう言った。その真意は、奴の左薬指を見て理解した。

「お前達は結婚したんだな。だが、私がジュディアを憎む心は消えていない。もし、私がジュディアを殺せばお前は私を憎むだろう?ジュディアは、それ以上の事をフィーネにしたんだ。今は、私が獄界に行き……約束通り再会出来たがな。これから先……私が進む道で、シェルフィアを傷付ける者……私の道を阻む者がいるなら、私は相手が誰であろうと倒す。お前が、心からジュディアを愛するのならば…… 私達の前に、あの女の姿を晒すんじゃない」

 ジュディアの話……それをすると、私の心が憎しみに満たされていくのがわかった。

「確かに……ジュディアを殺されれば俺は許さないな。だから……あいつを殺すのだけはやめてくれ……あいつをどうしても殺すというなら、俺を殺せ。俺にはその覚悟がある」

 セルファスはそう言うと、聖剣を自分の胸に当てた……

「お前の気持ちはわかった。だが、ジュディアを私から退けさせればいいだけの事だろう?」

 私はセルファスの聖剣を奪い、地面に放り投げた。こいつが死ぬ必要はない。

「あいつは……神術と命の司官。お前達から逃げる事は出来ないんだ。だからこそ頼む!」

 セルファスはその場に土下座して私に頼み込んだ。だが私は、ジュディアを前にして、殺さないという自信が無い。

「……ルナさんっ!私はここにいるんです!あの人を殺す必要なんて無いんです!許せとまでは言いません。でも、私達と同じ悲しみを増やすのは……苦しいです」

 そこで、シェルフィアが近付いてそう言った。その表情には深い慈悲と悲しみに溢れている。

「……わかったよ。シェルフィアがそう言うならな……セルファス、私達は天界へ向かう。異議はあるか?」

 私は、全身に火傷を負い……『滅』にほぼ全ての力を奪われたセルファスに問いかけた。

「……ルナ、そして、シェルフィアさん、ありがとう。そして……すまない!ルナ、俺は動けない。行くんなら行けよ。お前が考えてる事なんだ、何か世界が変わるような重大な事なんだろ?」

 セルファスは私達に深く感謝した後に、そう言って笑った。

「ああ、変えてみせる。今は、お前を友とは呼ばない。だが、私が世界を変えられたら……もう一度友に戻ろう」

 セルファスとは……また友人に戻れたらいい。それを言葉に出して、私は階段に踏みかかった。

「ルナー!待ってよー!」

 慌ててリバレスがついてくる。その直後だった。

「うぉぉ……ルナ!お前って奴は!」

 セルファスは号泣していた。人情に溢れた奴だな。そんな所を私は少し尊敬している。

 私達は先を急いだ。この先で……ジュディアに出会う事になる。それが不安だったが、前に進むしか道はない!

 私は翼を広げ、塔の中を飛び回る。そして、15時間程で1000階まで辿りついた。途中、天使の姿は無く同じ構造のフロアが繰り返されるだけだった。大理石の壁と床と柱……そして螺旋階段。壁には神術で灯された燭台……それが繰り返されたのだ。無論、昼も夜もわからない。フィグリルを出てから既に二十数時間が経過している。シェルフィアとリバレスの顔に少し疲れが見えたので、ここでしばらく仮眠する事にした。食事を摂り、3時間程眠る。

 

 

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