〜受け継がれた思い〜 ここは?目を開くと、見慣れぬ街の上空だった。冷たい風が吹き抜ける。 「……ここがリウォル王国です」 シェルフィアが私の耳元で囁いた。成る程……大した変化だな。 街の規模は数Km四方……その周りを全て厚く高い外壁によって守られている。外壁の上には見張り台……それも100m置きに1台。私の目には見えるが、見張り台の上にはそれぞれ5〜10人が重々しい重火器を携えて監視しているのだ。確かに、これなら街の外から侵入するのは難しい。遠目に見ると、崩れたリウォルタワーの残骸や……フィーネと愛を確かめ合った湖が見えていた。 「思い出の風景が残ってるな」 私はシェルフィアに囁いた。 「はい、街は変わってしまったけど、自然は残っていますね」 シェルフィアの目は潤んでいたが、今はそんな思いに浸っている場合ではない。降下する場所を選ばなければ。兄さんは城に降り立てと言っていたが……城には無数の兵が配備されている。向こうからこちらは遠過ぎて見えてはいないだろうが、そこに降りれば怪我人が出るかもしれない。城の高さは100mは楽に超えており、外壁には大砲が並ぶ……街の至る所にも武装兵が並び、連射式の銃だろうか……そんな巨大な武器が配置されている。正に戦場……これならば、どこに降りても変わらないか? 「ルナさん、あの噴水広場はどうでしょう?あの……真ん中に銅像みたいな物がある。あそこなら警備が薄いですよ!」 シェルフィアが指差した。シェルフィアにもあんなに遠い景色が見えるのか……私は彼女の力に少し驚いた。 「そうだな、そうしよう。今から私達の周り半径3mを光の膜で包む。絶対に私から離れないようにな!」 私がその言葉を発すると同時に、シェルフィアは私の体にギュッとしがみつく。 「光膜!」 その瞬間、強力な光が私達を包んだ!この光は王国全てに見えている事だろう。 「私は絶対離れないので、もっとスピードを上げて下さい!」 シェルフィアが叫ぶ!私はその言葉を信じ、城下町の噴水広場へと降下を開始した! 「キィィ!」 放つ光が音を放つ!街の噴水まであと100mぐらいまで近付いた時だった! 「ドンドンドンッ!」 「ドゴォォー……ン!」 「ダンッ……ダダダダダダダダ!」 銃……爆薬……連射銃……あらゆる兵器が私達を襲う! 「ルナさぁーん!」 シェルフィアが心配そうに私の首に抱きついた。私は彼女の頭を優しく撫でた…… 「大丈夫だよ。この程度の攻撃なら、この膜には傷一つつかないさ」 言葉通り、膜にはダメージすら無かった。5分以上にも渡る猛攻撃が続く……砂煙で周りは何も見えない。 やがて、攻撃が止み……砂煙が晴れると周りを数百人の兵に包囲されていた。その全員が銃を構える。 「厄介だな。でもこのまま、ここにいても仕方ないしな」 そう考えていると、兵の後ろから巨大な大砲が現れた。直径は1mぐらいあるだろうか? 「あんなのを受けて大丈夫ですか!?」 シェルフィアがまたも叫ぶ…… 「大丈夫だけど、膜ごと私達は遠くに飛ばされてしまうかも?」 私はそう言うと、一人で光膜を出た。シェルフィアは膜に包まれたままだ。 「ルナさぁぁーん!?」 シェルフィアが心配そうに光膜をドンドン叩く……しかし、その程度で割れる膜じゃない。 「いい度胸だ……俺はリウォル王国直属軍総指揮官だ。お前は何者だ?」 大砲と共に現れた男……30代半ばだろうか?随分と威厳に溢れた人間だ。 「私は、ルナリート。お前達『人間』を救う為に再びこの地に現れた」 私は兄さんが言った言葉を信じて、そう言葉を作った。 「ルナリート!?まさか……伝説の!?はっ!」 指揮官と名乗る男が、私達の後ろにある噴水の中心に立つ銅像を見て言葉を失っていた。 「街長……よく似せて作ったな。しかし」 私もその銅像を見て驚いた。正に、200年前の私とフィーネそのもの……だが、フィーネの像が私の腕に抱きつくような形だったので恥ずかしかった。 「いや、そんな筈はない!伝説は200年も前の話……生きているはずがない!魔物の術で騙そうとしている!」 指揮官が剣を取り、私に切りかかる! 「やれやれ」 「パキィィン!」 指揮官の剣を私は素手で折る。すると! 「撃てぇぇぇぇ!」 指揮官が飛び退くと同時に、大砲が火を噴いた!このままでは、弾がシェルフィアの膜に直撃する! 「うぉぉ!」 私は瞬時にオリハルコンの剣を抜く!そして剣に過剰なまでの力を乗せる! 「キィィン!」 音は一つ……しかし、大砲の弾には50斬加えた! 「パラパラ」 大砲の弾は唯の金属片となり、その場に崩れ落ちた! 「うわぁぁ!」 その様子を見ていた兵達は一斉に逃げ出した。恐らく、この大砲が国の最強武器だったのだろう。 「俺はこの国を最後まで守り抜く……殺せ」 剣を失い、大砲すらも通じない私に指揮官はそう言った。命尽きるまで、国に尽くすとは立派な者だな。 「もう……ルナさん、無茶し過ぎですよぉ!」 光膜を解き、出てきたシェルフィアが私を叱る。確かに少しやり過ぎだったかな。 「ごめん、ごめん。ところで、指揮官さん。私がいつ、敵だと言ったんだ?」 私は指揮官の肩を叩いた。この男には罪はない。唯、自分の信じる事の為に戦っただけだ。 「は?まさか、あなたは本当にルナリート様?」 今度は話を聞く気になったらしい。どうすれば信じてもらえるものか?銅像でも信じないのならば…… 「200年前にリウォルタワーを崩壊させたのは私だ。鉄神殿で祝宴を開かれた事もある。それでも信じないか?」 男は動揺していた。恐らく伝説通りなのだろう。それもその筈、私は本人なのだから。 「ならば……街長から『あるもの』を贈られたはず!これは、一般庶民は知らぬ事!」 成る程……あれは伝説には残らなかったのか。思い出の品……フィーネ、いやシェルフィアとの幸せの証とすべきもの……私はそれを持っていたが、今シェルフィアに見られるのはまずい。だから、指揮官にそっと見せて耳打ちした。 「……宝石シェファだろう?」 私の様子を察してか、指揮官は黙って頷いた。どうやら信じてくれたようだ。 「?ルナさん!?私に隠し事ですか!?」 シェルフィアが髪を揺らして怒っている。そうだ、今シェルフィアにこの宝石は見せたくないんだ。 「隠し事なんかじゃないよ。だから、今は何も聞かないでくれ」 私は真剣な顔つきでシェルフィアを見つめた。すると、シェルフィアは少し寂しそうな顔をした。 「わかりましたぁ……でも今度、ちゃんと話してくださいね!」 その言葉の後、私達は指揮官に連れられて王の間に辿りついた。 | |
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