「本当に、銅像の姿と同じだ……あなたが、かつてこの街を救ってくれた英雄ルナリート様?」

 リウォル国王……年は50代だろうか?白髪交じりの髪と黒く長い髭。一応はこちらも敬意を払っておくべきかもしれないな。

「はい。200年の時を経て、この街に再び現れました」

 私は軽く頭を下げた。すると、シェルフィアも頭を下げる。

「それで……ルナリート様がこの国に何用で?」

 王の目が鋭く変化する。まだ、私の事を完全には信用してはいないようだ。

「単刀直入に言わせて貰います。今から3ヶ月後、この世界……いや、人間達は皆殺しにされます」

 私は国王の目を見つめ返した。互いにその目は真剣そのものだ。だが……

「はははっ!何を言うかと思ったら……かつての英雄がそんな世迷言を!?」

 国王は愚か、兵達まで笑い出す始末……確かに現実離れした話だが……真実だ。だから、今度は少しきつい口調で言う。

「リウォル王国国王……私の言う事は真実だ。あなたは人間の王だ……そのあなたが、人間を守ろうとしないでどうするんだ?」

 私は国王を睨んだ。途端に場の空気が凍りつく……

「本気……なのか?」

 国王は少しおどおどした様子で私に聞いてきた。

「本気だ。そもそも私や、フィグリル皇帝ハルメスは人間じゃない。別の世界から来た者だ。その私達が人間の為に戦うのに、あなたは何もしないのか?事の重大さを知るんだ」

 別に脅すつもりはない。唯、人間の王にも戦いを理解してもらいたいだけだ。

「フィグリル皇帝の遣いか!?皆の者、この者を捕らえよ!」

 無知な王は、私を捕らえようとする。兵は周りに200人程。どうやら、王と二人きりで話す必要があるな……

「ルナさん、私に任せて下さい」

 私が神術を発動させようとした瞬間、シェルフィアが制止した。

「炎の壁」

 シェルフィアがそう呟いた瞬間、私達の周りを巨大な炎の柱が包んだ!高さ20mはあるだろう天井まで焦がす勢いだ!

「うわっ……私をどうするつもりだ!?」

 国王は椅子から転げ落ち、後退りを始める。しかし、それも炎の壁で遮られた。

「すまない。わかってもらえないようだから、こんな手荒な真似をするんだ。私の言葉は真実……3ヶ月後までに、全ての人間が手を組み……来るべき時に備えるんだ。3ヶ月後に、数百万の魔物と、数千の天使がこの世界に現れる。人間を全滅させる為に」

 私は正直にそれを話した。混乱は必至だろうが……人間の王には伝えておくべきだと判断したのだ。

「3ヶ月後に……魔物と天使が人間を滅ぼしに来る?天使など見た事もないが」

 まだ半信半疑のようだ……呆れた王だ。いや、急にそれを理解出来る程柔軟な人間など多くはないだろう。

「私は、元天使だ。この翼を見るがいい」

 私は光り輝く翼を広げた。どうやら、それで一応納得がいったようだ。

「そうか……ルナリート……様も……フィグリル皇帝も天使……どうりで何年経っても変わらないわけだ……だが、何故天使が人間を!?」

 なかなか頭が働くらしい。その質問にはどう答えるか?

「ルナリート様と、ハルメス様は唯一人間の味方なのです!……私達人間は、天使にとっても魔物にとっても邪魔な存在!だから……消されるんですよ!それを救う為に、ルナリート様もハルメス様も戦ってくださるのに……私達人間が戦わなくてどうするんですか!?」

 そこで、シェルフィアが叫んだ。ルナリート様っていう響きは好きじゃないが……

「我々は消される?人間が?」

 王はボーっと中空を見ていた。頭の整理が追いつかないのだろう。

「国王、あなたが人間の王としてやるべき事は決まっている。人間どうしのつまらない戦争を今すぐに止めさせ、それがいかに無意味であるかを教えるんだ。そして、3ヶ月後に訪れる悪夢に対抗する為に結束する事だ」

 私は言い放った。これを理解出来ないようならば、これ以上いくら諭しても無駄だろう。

 しばらく沈黙の時間が流れた。すると……

「……国王として……あなたの言った事を信じよう……だが、明日から3日間……時間をくれないか?あなたの言う通りにするのには、もっと時間がかかるが……4日目の朝に納得いく形で結論を出そう」

 国王はそう言って立ち上がった。そして、私に握手を求めてくる。

「人間の王も、なかなか見上げた者じゃないか。宜しく頼むぞ」

 そう言って私が手を差し伸べた頃には、周りの炎は消えていた。

「皆の者!この二人を最高級の待遇でもてなすのだ!」

 その意外な結末に、兵は呆然としていたが、王の命令なのでせわしなく動き出した。

「わかってもらえましたね」

 そこで、シェルフィアがニッコリ微笑んだ。

「それも、君の一言があったからだよ」

 私も微笑み返す。とりあえず3日間、リウォルへの滞在が決まったが予定の1週間よりは早いから大丈夫だろう。

 私達が案内されたのは、城内部にある来客用のスィートルームだ。ガラス張りの大きな窓、シルクのカーテン、そしてフカフカのベッド。何より、大理石のバスルームまでついていたのには驚いた。これなら、天界にも引けを取らないな……

 

 

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