〜作戦会議〜 「流石だな、ルナ。よく戻った!」 フィグリル城の屋上にある会議場で、私達は集っていた。城の屋上は、空と街が360度見渡せる壮観な会議場だ。 冷たく澄んだ空気、満天の星空と街の灯火の光が私達を包んでいる。世界の広さと美しさを私は感じる。 「お帰りー!フィーネ、シェルフィア!」 兄さんとリバレスに迎えられた私達は、喜びを分かち合っていたがそれも長く続けるわけにはいかない。 「ありがとうございます!しかし、本当の意味での祝杯は、3ヶ月後を乗り越えてからにしましょう」 私は椅子から身を乗り出して、兄さんの目を真剣に見つめた。 「その通りだ。その前に一つ聞きたいが、シェルフィアの力……どうしたんだ?」 兄さんも感じ取ったらしい。通常の天使を遥かに上回る程の力だからだ。 「皇帝、私はルナさんとの約束の為に生まれ変わりました。だからきっと、私の魂が共に戦う事を望んだのでしょう」 シェルフィアは恐れも無くそう答える。彼女の決意は固い。兄さんもそれを感じ取ったようだ…… 「そうかもしれないな……ただ、シェルフィアから感じる力は天使の力でも無くエファロードの力でもなく、勿論魔の力でもない」 兄さんは首を傾げる。一体何を言いたいのだろうか? 「皇帝……私の中にはフィーネとシェルフィアの心。そして、ルナさんからもらった力……そして、獄界から解放された力……そんな力が宿っているんです。私がここに存在する為に、色んな人から力をもらいました。だから、私が戦う意味はわかります」 シェルフィアは突然そんな事を言い出した。自分の力……それを理解し始めたのだろうか? 「シェルフィア?」 私が問いかける。すると、彼女は私に微笑んでから話を続けた。 「私の力は、ルナさんを助けるための力。もう二度と悲劇を繰り返させない力……そして、平和を創り出す力なんです!」 シェルフィアは力強く叫んだ!それは、私達の願いの本質だった。 「シェルフィア、お前は強くなったな。俺が拾った時とは格段に……わかった、ルナを……そして、俺達を助けてくれ!」 兄さんが頭を下げる。シェルフィアは、そんな兄さんの様子に慌てた。 「皇帝!私はあなたに感謝してもし尽くせません!あなたは、ルナさんと再び出会うこの日まで私を大切に育ててくださいました!私は、ルナさんと作る未来の為に……そして皇帝の為に……戦います!」 シェルフィアは叫んだ。もう私には止められない。昔から彼女は変わらないな…… 「シェルフィア、そしてリバレスも私が守ります。だから、共に戦いましょう!」 私が手を差し出すと、全員がそれに手を重ねた。結束の証だ。 「わたしもちゃんと戦うわよー!」 リバレスも真剣そのものだ。全員の意識が統一された所で、これからどうするのだろうか? 「それで、兄さん、残り3ヶ月で私達が行うべき事は?」 私がそう問いかけると、全員の目が兄さんに向けられた。勿論、この場には4人しかいないが。 「課題は3つだ。一つはこの人間界の戦乱を収めて、人間の意識を統一させること。次に、獄界からの侵攻を防ぐ事。そしてこれが最も重要な事だが、『神』に計画を中断させる事だ……人間界を中界にする計画は、神が示した計画。神の考えを変えさせない限り、この計画は終わらない。わかるな?」 兄さんは少し青褪めた顔で話した。確かに、これを全て遂行するのは非情に困難だ…… 「……わかりました。私はどうすれば?」 私も身震いして返答する。 「ルナ、お前はシェルフィアとリウォル王国へ行ってくれ。お前達が行けば戦乱を終わらせる事が出来る」 何故か兄さんは不敵に微笑んだ。なぜ私が行けばいいんだろう? 「兄さんでも無理だった事を私達が出来るのですか?」 私は首を傾げながら問い返す。 「まぁ、行けばわかるさ。そして、リウォルは金属と石の加工が最も進んだ国……お前がすべき事もあるだろう」 兄さんはまたも微笑んだ。私にはその真意は理解出来なかったが、行くしかないだろう。 「……わかりました。その言葉を信じて行ってきます。1ヶ月……いや、1週間で戦いを終わらせますよ」 私は覚悟してそう言った。こんな事に1ヶ月も費やしていてはすぐに『計画』が始まる。3ヶ月などあっという間だ。 「さすがだな。頼りにしてるぜ!」 兄さんは力強くそう言った。私は咄嗟に強く頷く。 「皇帝、私もベストを尽くします!」 シェルフィアも間髪入れずに返事をした。 「ああ!お前達なら大丈夫だ!」 その声の後に、リバレスは寂しそうに呟く。 「あのー……わたしはどうすればいいんでしょうか?」 彼女は私と離されるのが不服なのかもしれない。 「リバレス君……君は、ルナ達が帰ってくるまでに俺の下で修行だ。これからの戦い、今のままでは危険だ」 兄さんはそう言った。意外だった。今兄さんが出来るのはそんな事だけじゃないだろう? 「……わ、わかりましたー!」 リバレスも驚きながら返答する。 「兄さんは?」 私は思わずそう聞いてしまった。賢明な兄さんの事だ、当然他にする事があるのだろうが……私達だけ敵国に侵入するのに、兄さんは何の危険も冒さないのか?という私の弱い心が顕れたからだ。 「俺はリバレス君の修行と並行して、単身で『ある調査』をする。この世界の命運を左右する事だ」 兄さんの目は真剣そのもの……そして、自分の命をも懸ける覚悟の顔……私はこれ以上聞く事は出来ないと確信した。 「……わかりました。全員の健闘を祈りましょう!」 私がそう言うと、今度は兄さんが手を差し伸べた。それに全員が手を重ねる。 「その後の作戦については、ルナとシェルフィアが帰還後にしよう!」 そう叫ぶ兄さんの姿は、まるで軍の司令官だった。皇帝という身分に慣れているんだろうな。 「今日は皆、ゆっくり休んでくれ」 その合図と共に、私達は解散した。 私とシェルフィアの寝室。そこにはリバレスもいて、夜遅くまで色んな話で盛り上がった。楽しい一時だった。 200年前に楽しく過ごしていた光景、それと寸分違わない。その後リバレスが別の部屋に移り、私とシェルフィアは愛し合った。私はシェルフィアが眠りに就くまで抱き締めて……美しい金色の髪を優しく撫で続けていた。 それから……私は彼女の可愛い寝顔にそっとキスをして一人ベッドを抜け出した。思う事があったからだ。 | |
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