【第五節 終末への秒読み】 「あっ、おはようございます!」 私が目を覚ますと、横にはこれ以上無い程の幸せ顔のシェルフィアがいた。ここは、ミルドの宿だ。 「おはよう!」 私もその光景が嬉しくて微笑んだ。こんな朝を一体どれくらい待ち望んだことだろう? 「ルナさん、私は幸せです」 シェルフィアは頭を私の胸に寄せる。私はそれを優しく抱き締めた。 「私も幸せだよ。これから先もずっとな」 私はそう言って、シェルフィアとキスを繰り返した。もう二度と放しはしない。強く心に誓いながら…… 「はい、私はもうルナさんから離れません。だから、あなたも私から離れないで下さいね」 彼女の強い思いが伝わってくる。もう、私達を引き裂くものは何もない。私も、ありったけの心を彼女に届ける。 それだけを考えていると、いつしか時間は過ぎ去り…… いつまでも、この幸せな時間を過ごしていたい。戦いも、天使もエファロードも何もかも忘れて…… でも、このまま何もしなければ3ヶ月後には『人間界』の終焉が訪れる。シェルフィアとの愛を続けるならば、戦うしかないんだ。そんな事を考えている間に、シェルフィアは丹精込めて作った料理を運んできた。 「さぁ、ルナさん!いっぱい食べて下さいね!私……料理うまくなったんですよ!」 シェルフィアは、フィグリル城で料理を作っていた。その腕前は確かで、見た目も味も最高だった。 「本当だ……上達したなぁ……でも、昔の味も味わってみたいな」 私は料理を美味しく食べながら、つい一言そんな言葉を漏らした。 「それじゃあ……これを食べてください」 豪勢な肉料理やスープ、サラダや美酒が並ぶ中でシェルフィアが差し出したものは1枚のトーストだった。 「これは!?」 私はそれを一気に頬張る。懐かしい……思わず、私の目が滲んだ。 「辛くて美味しいな」 そう言いながら、私の胸は締め付けられた。シェルフィアは、フィーネの事もちゃんと覚えている。それが嬉しかった。 「ありがとうございます。私は、そんなルナさんの優しい所が大好きなんですよ」 恥ずかしそうに俯く……その仕草がフィーネにそっくりで、私は思わず席を立って抱き締めずにいられなかった。 「ルナさん」 彼女は頬を赤く染める。純粋な瞳が私を見つめる。私はその目を見て決断した。 「シェルフィア、話す事がある」 私は、この幸せな瞬間を消し去るかもしれない話をする事を決断したのだ。 「えっ……何ですか?」 私は不安そうに目を見開くシェルフィアにゆっくりと話を始めた。そう……『新生・中界計画』についてだ……話が終わるまで、シェルフィアは黙って私の目を見つめていた。 「ルナさん、今のお話を聞いて一つお願いがあるんです」 それ程混乱した様子もなく、彼女は私に対して真剣な眼差しを向けた。これは覚悟した者の目!? 「一体何のお願いだ?」 まさかとは思ったが、私は冷静を装ってシェルフィアに聞き返した。 「私も戦います。もう、私はあなたに守られているだけじゃダメなんです!皇帝も、リバレスさんも人間の為に戦ってくれるのに!人間の私が戦わないのはおかしいじゃないですか!?」 シェルフィアは驚くような大声で叫んだ! 「ダメだって!君の力じゃあ、戦う事は出来ない!天使や魔がどれ程の力を持つかは知ってるだろ!?」 私も叫んだ!シェルフィアを二度と危険には晒したくないんだ! 「これでも、ダメですか?」 そう言うと、シェルフィアは目を閉じて意識を集中し始めた!すると! 「ゴォォ!」 シェルフィアの体を炎が覆ったのだ!一体!? 「一体……君はどうしてそんな力を!?」 私は叫んだ。人間がこんな強大な力を使えるはずがない!魔が言う生命力の数値化を行うと……10万は軽く超えている!? 「私の心が一つになった瞬間……こんな力が使えるようになったんです。きっと……フィーネだった頃に、ルナさんに何度も力をもらったから……そして、獄界に堕ちて再び転生する事が出来たから……こうなった理由はわからないけど、この力はあなたを助けるためにあるんです!」 こんな事があるんだろうか?私が強大な力を彼女に用いたから?確かにそうかもしれない。天使と人間の魂は同じ…… 「その力でも、勝てない敵はたくさんいる。だから」 私がそう言いかけた瞬間…… 「今の私には戦える力があります!これで、本当の意味で私はあなたから離れなくていいんですよ!私達は、ずっと一緒にいると約束したじゃないですか?だから!」 彼女は一度決めたら変わらない。それが私とソックリだった。何を言っても説得するのは難しいだろう。 「わかった。でも、私は君を最優先で守るからな」 これが譲歩出来る限界だ。シェルフィアは私の生きる意味そのものなのだから…… 「はい!私も……あなたを最優先で守ります!」 彼女にとっても私の存在は同じなのだろう。少し不安だが、彼女には傷付けさせたりはしない。私は決意した。 「そろそろ、戻らないとな」 時刻は夜の8時……きっと、兄さんやリバレスは心配しているだろう。 「あっ……その前にもう一度だけ」 シェルフィアの体を覆う炎のオーラが消えて、また元の可愛い少女に戻った。 「大好き」 私達は長い長い口付けを交わした後に、名残惜しくもフィグリルへ戻ったのだった。 | |
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