〜結ばれる心〜

 夜になった。空は半分が雲に覆われて、残りは月と星が私達を照らしている。村の窓からは明かりが漏れ、まるで地上の星のようだ。ここにあるのは、優しい光と……私の腕の中で眠っているシェルフィアの寝顔……

「ルナ、さん」

 冬の空気が冷たく私達を包んでいる中で、シェルフィアは静かに目を覚ました。

「おはよう……フィーネ。そしてお帰り!」

 私は心の底からの優しさと愛しさを表情に出して……微笑んだ。

「ルナさん、ルナさんっ!」

 私の顔を見た瞬間、首に抱きついてくる!間違いない、フィーネの心は完全に戻ってきたんだ!

「フィーネ!」

「ルナさん!」

 抑えていた感情が洪水のように堰を切って溢れ出す!

「んっ!」

 私達は夢中でキスを交わした。会いたかった!ずっと……ずっと!

 寂しかった!悲しくて……辛くて!

 君のいない世界なんていらない!だからもう二度と離れたりしない!

「……会いたかった!私は、ずっと、真っ暗で何も見えない闇の底にいたんです。でも、でも!」

 フィーネは、涙で声にもならないままに叫んだ!

「……いいんだよ。君はこうして戻ってきた!それだけでもう何もいらない!言葉さえも!」

 世界の誰よりも愛するフィーネの心が戻ってきた!傷ついていた心が一瞬で癒されていく!

「でも、どうしても一つだけ言いたい事があるんです!」

 フィーネは顔を真っ赤にして私の胸に顔をうずめる!私も伝えたい事がある!200年間言えなかった言葉!

 

「愛してる!」

「愛してます!」

 

 私達の声は重なった!想いは同じ。約束は今果たされたんだ!幸せの為の約束が!

 私は、嬉しくてどうしようもなくて……フィーネの体を持ち上げて、ぐるぐるこの場を歩き回った!嬉しい涙が止め処なく溢れる!

「あっ!ルナさん!掌を開けて空に向けてください!」

 その台詞は聞いたことがある。私はフィーネの言う通りにした。

「本当に約束どおりになったな」

 涙で滲む眼に映ったのは……真っ白な雪だった。200年前に約束を交わした時と寸分違わぬ光景……

「……はいっ!ルナさん、寂しい思いをさせたけど今帰りました。ただいま!」

 私はそんなフィーネが愛しくて……抱き締めて、頬を寄せて再会の喜びを分かち合っていた。それだけで、今まで苦しかった心が解き放たれる!やっぱり、私に必要なのは君なんだ!私には世界よりも、天界よりも……自分の命よりも大事な存在なんだ!君がいなければ私は何も出来ないんだよ。

「ルナさんっ!お願いがあるんです。聞いてくれますか?」

 フィーネは、頬を朱に染めながら私にすがりつく……お願いなら何だって聞こう。

「何でも聞くよ……今日は、君の心が戻ってきた記念日だから!」

 私は、フィーネの頭を優しく撫でた……一度死んで、また再会出来たんだ。お願いを聞くなんて容易いものだ。

「それじゃあ……一つ目は、ルナさんにとっては慣れないかもしれないんですけど、私の事は『シェルフィア』って呼んで欲しいんです。私の心は一つになったんですけど、シェルフィアとして生まれて今まで生きてきました。……だから生まれ変わった私は、新しい気持ちでルナさんともっともっと幸せになりたいんです!もし、ダメだったらフィーネでいいですけど」

 フィーネ、いや、シェルフィアは首を傾げた。確かに、シェルフィアとして見たらもっともな事だな。

「わかった!名前と姿は変わっても、心は変わらない。シェルフィア、よろしくな!」

 私は、そう言うとシェルフィアに優しく口付けした。すると、彼女はとても嬉しそうに微笑む!

「良かったぁ……実は、シェルフィアとしての私もルナさんの事が好きだったんです!名前を呼んでもらえて幸せです!」

 そうか……心が一つになったから、二人分の事が全てわかるし想いも共有出来るんだな。

「いっぱい思い出がありますね……私は全部覚えてますよ」

 シェルフィアは潤んだ目で私を見上げた……そんな彼女が、狂おしい程に愛しい!

「私も全部覚えてる。でも、今からもっと楽しくて幸せな思い出がたくさん増えるから忘れないようにな!」

 私は、微笑みながらシェルフィアの頬を撫でた。

「忘れませんよぉ!ルナさんこそ、忘れたら怒りますよ!」

 シェルフィアは、首を振りながら怒ったような素振りを見せた。こんな他愛の無いやりとりでも、私達の心は幸せで満たされる。

「……それはそうと、お願いがまだあるんじゃないか?」

 私は、急に真剣な顔をしてシェルフィアに尋ねた。すると……彼女の顔が朱に染まり、耳まで真っ赤になった。

「……はい、えっと……いっぱいお話したいんです」

 この様子は見覚えがある。もはや二度も言わせてはいけない。

「……私もだよ。今夜はずっと二人だけでいような……いや、これから先もずっとずっと!」

 私は、シェルフィアの肩を抱く……今日からが、『約束』の続きなんだ。永遠に続く幸せの……

「……はいっ!……ルナさん、大好きです!」

 私達は、雪の積もり始めた道を歩き出した。私達の未来の足跡は見えないけど、信じていれば二人で歩んでいける。

 これから先には険しい道が続くかもしれない。でも、シェルフィアがいる限り私はどこまでも強くなれる。不可能なんてないんだ。

 

 だから、今夜は200年届かなかった思いを届けよう。
大好きなフィーネ、シェルフィアに……

 

 We have The Heart of eternity to become happy
and strong for future. So we believe.
 

 

 

目次 第五節