§第四章 シェファ§

【第一節 変革は眠りの中】

 

「ここはー?」

 リバレスが目を覚まして辺りを見渡す。獄界から私達を『転送』させた地……それは、フィグリルの街だった。

「ここはフィグリルだ。『転送』は、私がイメージ出来る場所なら瞬間的に移動出来るみたいだ」

 私は、改めて今の自分の力に驚いた。獄界に行ったからこそ、力は覚醒した。もう二度と行きたくは無いが……

「フィグリルって事は、ハルメスさんに会いに行くのねー?」

 リバレスは、私の顔を嬉しそうに眺めながら宙を舞っている。それもその筈だ……長く苦しい戦いから解放されたのだから。

「ああ!リバレス、よく頑張ってくれたな!」

 私はリバレスの頭を優しく撫でる。こいつがいなければ、フィーネを解放するのは無理だっただろう。

「わたしは何もしてないわよー!ルナが頑張ったからじゃない!でも、ルナが『神』の名を受け継ぐ者だったなんて……ビックリよー!」

 リバレスが大げさに頭を振る。私が神であろうが天使であろうが、私とリバレスの関係は変わらない。

「私とリバレスは何も変わらないよ。私は、エファロードとしての力と記憶を継承したけど、心までは変わらないからな」

 私はリバレスに微笑んだ。すると、リバレスも嬉しそうに笑う。本当に……お前はベストパートナーだよ。

「さぁ、行こうか!2週間近く獄界にいたんだ。きっと心配してる!」

 私はそう言って、リバレスは指輪に変化して……ハルメスさんの待つ神殿へと駆けていった。

「お帰り!心配したぜ……どうなったんだ?指輪は!?」

 神殿の前で立っていたハルメスさんが、私を見つけて走り寄って……私を抱き締めながら叫んだ言葉がそれだった。

 立ち話をするのには長過ぎるので、ハルメスさんの部屋で話をする事にした。

 獄界へ行くまでの過程……魔にも愛がある事……指輪を渡した事……暗黒の海での声……そして、戦いの連続……フィーネの魂は200年後に転生する事になった事……そして……

「フィーネさんを助ける事が出来て本当に良かったな!
そして……ついにエファロードを知ってしまったな」

 ハルメスさんは、まるで自分の事のように喜んでくれた。でも、エファロードの話になった時には真剣な顔に変わった。

「はい、私とハルメスさんは『愛』を命題に生まれた、『神』の後継者なんでしょう?」

 私がそう言った時……ハルメスさんは何とも悲しい顔をした。

「確かにそうだ。でも、俺は『愛』をするように生まれてきたんじゃない。ティファニィだから愛せたと信じてる」

 彼は俯いていたが、顔をあげて強い心を持つ目で私を見据えた。

「私もそうです。決して作られたものなんかじゃない。そう言い切れる自信があります」

 私達は、同じ考え方を持っている。それが何だかおかしくて笑ってしまった。

「ははは!やっぱりお前は俺の『弟』だよ!俺達は同じ血を引く本当の兄弟だからな!」

 ハルメスさん、ハルメス兄ちゃんがそう言った。そうなんだ、慕っていた人は本当の兄だったんだ!

「私も……貴方を兄さんみたいと思ってましたけど、本当の兄弟なんですね!嬉しいですよ!」

 私達は、エファロードで兄弟。同じような考えを持ち、同じような生き方を送る。それは当然だったのかもしれない。

 でも、私は今まで知る事の無かった自分の事や兄弟、親を知る事が出来て嬉しかった。ハルメスさんが兄だったなんて……私には自分がエファロードである事よりもずっと大切な事に思えた。

「俺も嬉しいぜ!ルナがそれに気付いてくれてな!フィーネさん奪還の祝いもあるし今日は盛大に祝おう!」

 ハルメス……兄さんはそう言って、私の肩を叩いた。

「良かったわねー!」

 リバレスも涙を流しながら喜んでくれた。そうだ……私も兄さんもリバレスも家族なんだ。

「今日は……酔い潰れるまで飲みますよ!」

 そう言って、嬉しい宴会が始まる事になった。唯……フィーネがここにいないのが残念だったが……

 いや、フィーネもティファニィさんもいたら最高だったのに……
でも贅沢ばっかり言えない。フィーネはすぐに戻ってくる。

 

 

 

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