〜レニーの宿のバルコニーにて〜 私達は、宿で一時間程待っていた。すると、街人にフィーネは運ばれてきた。 「わざわざありがとう。フィーネは、酒に弱いみたいだ」 私は、宿まで運んでくれた街人に感謝の言葉を述べた。 「いいえ!英雄の為ですから!僕達は、生涯あなた達の事を忘れません!」 街人達は、私にこれ以上無い程の感謝の言葉を述べてから帰っていった。 私は、眠っているフィーネを抱えてベッドに寝かせてから、宿にあるバルコニーに出た。 「フィーネも、普通の人間なんだな」 私は、強い心を持つ彼女の人間らしさに少し驚いていた。 「ホント、人間って色んな面で弱いわねー」 リバレスは、バルコニーに誰も人がいないのを確認してから元の姿に戻っていた。 彼女は、ESGと共に酒を飲んでいた。やはり、彼女にも人間界の酒は効かないようだ。 私は、しばらく考えていた。 「200年間か……もしかすると、短く感じるかもな」 私は、段々と人間に対する誤解が無くなっているのを感じていた。そして、今の日々に楽しささえ覚えていたからだ。 「へ?いやー、長いでしょーやっぱり」 リバレスはまだ、私の心境の変化を知らない。いや、認めたくないだけかもしれない。 「ルナさぁーん!」 少し遠くでフィーネの声がして、しばらくしてから足取りの覚束ない彼女が現れた。 「どうした、眠れないのか?」 私は、まだ酒の抜けない彼女に訊いた。 「……あなたは、人じゃないかもしれないけど、いい人ですね」 彼女は少し俯き加減でそう言った。照れているのか? 「一体、急に何を言い出すんだ?」 しかし、フィーネは尚も言葉を続けた。 「……私のわがままを聞いてくれて……そして助けてくれて……初めは無口で冷たい人だと思っていたのに……とても感謝してます」 「フィーネ、酔っているのに無理するな。ゆっくり寝るんだ」 私は、その言葉は少し嬉しかったが、酔いで少し真実味がない分彼女の体の方が心配だった。 「私は酔ってません!今言った事は全部本当です!」 彼女は驚く程大きな声を出した。どうやら、本当なんだろう。 「でもねー、顔を赤く染めて千鳥足のあなたの言葉は説得力ナシよー」 珍しく、リバレスが笑ってそう言った。彼女も少しは人間を認めたのだろうか? 「私は、酔っても……嘘はつかないんです!あれ?目の前が」 その言葉の直後、彼女は前のめりに倒れかけたが私が受け止めた。 「はー……ヤレヤレねー。これだから人間は」 リバレスが溜息を漏らした。その気持ちはよくわかる。 「まぁ、仕方ないだろう。それでも、私が思っていた人間像よりは遥かに上出来だ」 私は、今の率直な意見を話した。 「ルナはなんでも、公平に見ようとするもんねー。でも、あんまり人間びいきになるとジュディアに怒られるわよー!」 ジュディア……そういえば、私が堕天する前に「人間に毒されるな」と言っていたな。 「私は、人間に毒されてなどいないさ。ただ、思っていたよりも愚かではないと理解しただけだ」 私は、そう弁明した。 「はいはーい。確かに、人間も一部しか見てないけど天界で言われてた程馬鹿じゃないもんねー」 天界で教えられていた人間……それは、知能が低く感情のみで動く動物。言葉を一応話すことが出来る。程度のものだった。 「天界の教えの中には矛盾したものが多かったからな」 私は、天界での勉強を思い出した。思想を統一して、感情を束縛する教え…… 「ルナが反発したから、わたし達はここにいるもんねー。ルナと一緒ならどこでも楽しいけどー」 そう言ってリバレスは私を嬉しそうに見た。何が嬉しいのか? 「お前がいてくれて感謝してるよ。私の第一の理解者だからな」 私が素直にそう言うと、 「照れるわよー!」 と、小さな手で私の頭を軽く叩いた。 「天界に帰ったら、人間の誤解も解くか。ジュディアはちょっと怖いけどな」 と、私は少し大げさに肩を震わせた。 「ほんっと、ジュディアが思い詰めたらルナは何されるかわからないもんねー」 私の為を思ってだが、考えを改めさせる為に神官に密告するほどの天使だ。私が人間に毒されていると勘違いされたら怖いな。 「あいつも、一度人間界で生活したら考えも変わるだろうけどな」 私達は笑っていた。思い出話が弾む。 「セルファスやノレッジはどうしてるかしらねー?」 「セルファスは、ジュディアに言い寄ってるだろう。ノレッジはきっと次の試験で一位を取る為に勉強に必死だろうな」 私はみんなの行動が予測出来るのがおもしろかった。 「そういえば……そういえば」 次から次へと思い出話が出てきた。 今思い返すと、友人と過ごした天界での生活も楽しく思えた。あんなにも、自由の無い世界が嫌いだったのに不思議なものだ。 「人間界での話も一杯持ち帰りましょーねー」 リバレスが翼をはためかせて、私の周りを飛び回りながらそう言った。 「そうだな。この世界でも色んな思い出が出来そうだ。また、明日からも頑張るか!」 「はーい!」 私達はまた明日からの旅に備えて眠りについた。 しかし……フィーネが目覚めるのはいつになるやら…… | |
目次 | 第七節 |