【第四節 優しき強さ】

 

 眩しい……私は、フィーネの家の寝室にあるガラス窓から差し込む光で目を覚ました。

「うーん」

 しばらくして、リバレスもうっすら目を開いた。その様子から、彼女はやはり朝に弱い事がわかる。

「もう目を覚ませよ、リバレス」

 私は、笑顔で彼女の頭をポンポンと撫でて起床を促した。

「はいはーい……起きますよー」

 ようやく、リバレスは伸びをして完全に目を覚ましたのだった。

 しかし、フィーネの姿が見当たらない。昨晩は三人とも同じ部屋で寝た筈なのに……私は、天界から持ってきた純銀で装飾されている懐中時計を開いた。時刻は午前6時10分。もう、こんな時間に彼女は起きているというのか?私が寝ている隙に魔が現れたという心配が私の心をよぎったので私はフィーネを探しに行こうと思った時だった。

「おはようございます!ルナさん、リバレスさん早起きですね!」

 私達が寝ている部屋のドアが不意に開いた。そこに、清々しい笑顔でフィーネは現れたのだった。

「おはよう」

「おはよー」

 私達はほぼ同時に返事をしたが、リバレスは少し元気が無かった。まだ、人間の手助けをする事を心から認めてはいないからだろう。

「ルナさんの朝食の準備が出来ましたよ!どうぞ、食べて下さい!」

 私達は、フィーネに連れられて食卓を囲んだ。今日の朝食は、スクランブルエッグとベーコンとパンという物だった。これも、なかなか美味で人間界ではよく食べられているらしい。食後に、コーヒーという物を飲んでみたが苦くて飲めなかった。

 リバレスは相変わらずESGと水だけを摂取し、始終私の肩の上に座っていた。その表情からフィーネには、やはり心を許していないようだった。その後食事を済ませた私達は、各々に分かれて出発の準備をすることになった。無論、昨日フィーネと約束した『非情な魔のみを排除する』旅の為だ。これは、私にとってリスクの高いものだが、私自身が決めた道だ。後悔はしない。その決意を胸に私は準備を進めていった。戦いに向けての準備は、オリハルコンの剣、黒の戦闘用の防護服、フィーネの家にあった爆薬などだ。その他には、天界から持ってきた衣服や食器などに加えて、この人間界の世界地図やコンパス、数日分の食糧、そして銀貨などの必須アイテムを用意した。

 私が用意を終えて、二人は未だ用意に追われていたので私は天界から持参した本を開いた。本のタイトルは『自由と存在』だ。この本は、私にとって思い入れが深い……なぜなら、今から1000年前に天界で私のような考えを持ち厳罰を受けた天使が書き残した本だからだ。その天使と私は仲が良く、兄のように慕っていた。しかし、神官によって力のほぼ全てを封じられて存在を消されたのだ。

 その天使が消えても、思想は私に根付いた。この本は、言わば私にとっての生きる指針と言っても過言ではない。無論、本の内容は一言一句記憶しているのだが、大切な物なので持ってきたのだ。

 しばらく、本を熟読していると二人の用意が終わったようだった。

「用意は済んだか?」

 と、私は二人に訊いた。

「オッケーでーす!」

 とリバレスは元気に答えた。その表情は相変わらず元気そうだ。それにしても、リバレスの見た目は何も変わっていないのに、なぜ私よりも用意に時間がかかる?

「はい!私も大丈夫です!」

 と答えたフィーネを見た私は驚いた。何故なら、姿に似合わぬ重そうな鎧を着た上に剣を三本も携えている。

「……フィーネ、動けるのか?」

 と私は呆れながら訊いてみた。

「……もちろんですよ!」

 と声を張り上げて一歩歩こうとした瞬間、ガシャン!という大きな音を立ててその場に崩れ落ちた……

「フィーネ、意気込みはわかったから、鎧と剣は置いてくるんだ。動けなければ意味がないだろう」

「……はぁい……そうします」

 私が言い聞かせると、彼女は顔を赤らめて恥ずかしそうに部屋の奥へと戻っていった。

 数分後……

「お待たせしました!」

 今度はフィーネは、丈夫そうな衣服を着て、剣とナイフを一本ずつ装備して現れた。そして、調理器具やテントなども持っている。これなら大丈夫だろう。

「……よし、出発するぞ。人間を助けたいんだろ?」

 と、私は声をかけると同時にテントを担いだ。人間の女性が持って旅するのには少し重いだろう。

「はい!ありがとうございます!……でも、その前にどうしても立ち寄りたい所があるんです」

 と、一瞬彼女は悲しそうに目を伏せたのでその場所に立ち寄ることにした。

 

目次 続き