〜光を求めて〜

「コンコンコン」

 まだ日も昇らない早朝、ハルメスさんがドアをノックする音が響いた。既に、俺達は準備が出来ている。

 ハルメスさんに連れられて、俺達は屋上に集まる。そう、フィーネが凍えながら俺を待っていたあの屋上だ……

「ルナ、どうかしたのか?」

 ハルメスさんは、俺の表情を読み取ってそう訊いてきた。

「いえ……ただ、早く助けてあげたいと思ったんです」

 正直、俺はあの時の事を思い出して悲しみが込み上げていたのだが、そんな弱音は言えない。今は、前に進む事が大事なんだ。

「そうか……わかった」

 ハルメスさんは力強く頷く。まず、リバレスが俺の指輪に変化した後にハルメスさんの翼によって『獄界への道』まで送ってもらうのだ。

「ルナ、出発する前に一つ伝えておく事がある」

 そう言って、ハルメスさんは真剣な面持ちをした。

「……はい、何ですか?」

 俺は、その様子に少し緊張しながら答えた。

「天使の指輪についてだ。天使の指輪は、天使である証であると同時に、持つ者に対して力を与えているんだ。だから、人間が天使の指輪を付けると、天使と同等の力を得られる。そして、逆に指輪を外した天使は力を失っていくんだ。ESGを摂り続ければ別だがな。これは、一般の天使の話……俺とお前、つまりはエファロード……俺達は、生まれた時から天使以上の力を持っている。そんな俺達が、指輪をつけるとどうなるか?力を与えるはずの指輪に力を奪われるんだ。要は、俺達の力は天使の指輪によって制御されているという事だ」

 そうだったんだ。指輪にそんな役割があるのは知らなかった。俺が驚いているのを余所に、彼は話を進める。

「俺が何を言いたいのか?お前が、フィーネさん、そしてリバレス君を守る最後の手段……それは、指輪を捨てる事だ。天使としての自分を捨てる覚悟があるなら、お前は制御されないエファロードの力を発揮出来るはずだ。だが……忘れるな。二度と『天使』には戻れない。天界に住む事も出来ない」

 ハルメスさんはそれで指輪を外したんだ。ティファニィさんを守る為に……本当に、貴方は俺の人生の師だと思う……

「……わかりました。もし、俺が指輪を捨てるような事があったら……人間界ではお世話になりますね」

 俺は、二人を守る為ならば天使としての自分など惜しくは無い。

「よし、任せろ!でも、それは最後の手段だからな!……そろそろ行こうか!」

 彼は意識を集中して、光の翼を開いた。光で編まれた美しい翼が……これが、制御されない力なんだ。

「準備はオッケーでーす!」

 

 リバレスの掛け声と共に、俺達は天高く
舞い上がった。

 神殿や街が遥か下に見える。遠くに見える山々から
朝陽が顔を出してきた。

 その光は山々を照らし、街を照らし……やがては
海を朱に染めた。

 こんな光景を次に見られるのはいつだろう。
君と二人で雪の降る丘で会えるのは……

 真冬の空は……人間じゃない俺達にも凍える程寒かった。
でも、君はもっと冷たい思いをしてるよな……

 人間界に来てからの時間……短かったけど、俺の一生の
半分以上の出来事があったような気がするな……

 永遠の心……そして、愛する心……
まさか、知る事になるなんて……

 天界では、自由を求めるだけだった。
それを皆に与えるのが使命だと思ってた……

 でも、今は違う……自由よりも何よりも……
フィーネに会いたいんだ。

 俺は戦うよ……命も魂もかけて、君を取り戻す……
幸せになる為に……

 

 大海原をハルメスさんは、高速で飛んでくれて丁度正午頃に目的地が見えた。海の真ん中に突き刺さるような、高い岩山に囲まれた島……あれが、『獄界への道』……通称死者の口か……植物は一本も生えておらず、大地は暗黒に染まり……光さえも反射しない。恐らく……獄界からの、闇のエネルギーが漏れている所為だろう。天界と人間界は、S.U.Nの光に支えられている光の世界……

 だが、世界が3つに分かれた時から獄界は『暗黒の海』の中に存在している。天使が踏み込んだ事の無い世界だ……

「……リバレス、行くぞ!」

 地上10mぐらいまで降下した所で俺は、ハルメスさんから離れて島へ飛び降りた。

 すぐさま、数十体の魔に囲まれたが、ハルメスさんの神術で魔は瞬時に消滅した!

「必ず……全員無事で戻ってこいよ!」

 ハルメスさんは力強くそう叫んだ。俺達が獄界で戦っている間は、ハルメスさんが人間界を守ってくれる。何も心配いらない。

「行ってきます!」

 俺は、人生の師を背に……最高のパートナーと共に……何よりも愛するフィーネを今から救いに行くんだ!

 

§第二章 人間界§

 

 − 完 −

 

目次 第三章 第一節