「さぁ、今日は1000年振りの再会を祝って乾杯にしよう!」

 神殿の中にある大広間に案内されて、円卓に座るとハルメスさんが歓喜の声を上げて祝宴が始まった。

 天井には一際大きく豪華なシャンデリア。壁際には、銀の燭台。さらに、美しい彫像の類が整然と並んでいる。本当に天界に似ている。

「ハルメスさん、僕はこの日をどんなに待ち望んだ事か!話したい事が山ほどありますよ!」

 私は、再びハルメスさんを前にして感情を抑え切れなかった。リバレスは、人間の女性に変化してフィーネと話しているようだったが、今の私の目には映らない。そして、音楽隊の演奏や他の衛兵や、招待客などの声も耳には入ってこない。それ程までに、私はハルメスさんと話がしたかったのだ。生き別れた大切な『兄ちゃん』に会えたのだから……

 私達の話は1000年前から始まった。小さい頃の思い出……天界の孤児院の話。ジュディア達の話……そして、この1000年間で私が歩んだ道……その後に、神官ハーツとの事件の話になり……『神』の話もした。

「そうか……あんなに俺にくっついてばかりだったルナが、よく頑張ったな!お前は俺の誇りだよ」

 そう言って、ハルメスさんは私の頭を撫でてくれた。懐かしい感覚……記憶に埋もれていた感覚だった。

「はい!貴方が僕に教えてくれたから……ようやく『ハルメス兄ちゃん』の夢が実現したんです!」

 私は、子供のような笑顔でそう言った。褒めて欲しかった。この思いを伝えたかった。

「ああ!今日は生涯で忘れられない嬉しい夜だぜ!」

 私達は共に、勝利の美酒に酔いしれた。そして、一時も休まる事なく語り続けた。

 話は、ハルメスさんが堕天してからの話……『ティファニィ』という人間の恋人がいたという話……それは詳しく教えてくれなかったが……

 そして、私とフィーネの話になった。私とフィーネが出会ってから、ここまで来た話をした。

「お前も立派な大人だな。大切にするんだぞ!絶対に失わないように!」

 ハルメスさんは嬉しそうだったが、何故か少し悲しげな目をした。余り多くは語らないティファニィさんと何かあったんだろうか……

「はい!私は、絶対にフィーネを守り通します!」

 ここで、私の言葉遣いは元に戻った。ハルメスさんの前であっても、ずっと子供ではいられないと思ったからだ。

「よし!それでこそ、俺が見込んだ男だ!その誓いを忘れるなよ!」

 ハルメスさんは、笑顔でそう言って私の背中を強く叩いた。私を少しは大人と認めてくれたんだろう。

「はい!……いつかは、ハルメスさんとティファニィさんの話も聞かせてくださいね!」

 私は、ハルメスさんの言葉に応えた。そして、どうしてもハルメスさんと恋人との話も聞きたかったのでそう言った。

「おう!……この戦いが終われば話す……必ずな!」

 そう約束してくれた。絶対に、魔との戦いを終結させよう……フィーネの為に……私の為に……そしてハルメスさんの為に!200年あれば……私とハルメスさんが共に戦えば恐いものなど何もない。何故なら、ハルメスさんは私よりも強い力を持っている。1000年前に、ハルメスさんは天界一の頭脳と力を誇っていた。この街の結界を見れば、今もその力は健在な事がわかる。

「必ず……やり遂げましょう!」

 私とハルメスさんは強く手を組んだ。誰よりも心強い人と再び、共に生きられる。私の心に、不安の影は何処にも無くなったのだった。

「ルナ、それはそうとフィーネさんを放っておいたらマズいだろ」

 そう言われて私はハッとした。周りにはフィーネは愚か、他の人間は誰もいなかったからだ。

「あの……今何時ですか!?」

 私は焦って、そう訊く。

「今はなぁ……夜中の3時だ。早く戻ってやれよ!」

 私は、その言葉の直後立ち上がって、ハルメスさんに一礼してから部屋への道を駆け出したのだった。

 

「ガチャッ」

 私は、自分の客室に戻って扉を静かに開けた。見渡すと、リバレスが眠っていてフィーネの姿は無かった!

「フィーネ!」

 私は思わず叫びそうになったが、私のベッドの上にあるメモ書きを見つけたので声を押し殺した。

 

『愛するルナさんへ 屋上のテラスで待っています。凍えない内に会いに来て下さいね……フィーネ−ディアリーハート』

 

 綺麗な文字だった。それよりも、今は冬!急がなければ!私は、メモ書きを懐に入れて全速力で屋上まで駆け出した。

 

目次 続き