Prologue

 

「雪が降りました。貴方達を喪ってから、初めての……」

 

 (ほのお)のように赤い髪と、揺るぎ無い信念を宿した碧眼(へきがん)を持つ青年が、ゆっくりと、流れるように言葉を発した。

「私達は幸せです。貴方達がいてくれたから」

 滑らかで光沢のある金髪を風に(なび)かせ、この世の闇を超越したかのような、気高い目で空を仰ぐ少女が青年の言葉を継ぐ。

 彼等は、粉雪が舞う夕刻の丘で寄り添い、大切な人達へ言葉を届けているのだ。今は居ない、しかし、心の中で生き続ける人達へ。

 二人はギュッと手を握り合い、丘の(ふもと)の街に目をやった。良質な鉱石の採掘、加工を生業(なりわい)とする、少女の生まれ故郷に。

 懐かしさ、愛おしさ、哀しさ、入り乱れた感情が彼等の顔を彩る。それらの一つ一つが、彼等の歩んだ道の記憶。そして心に刻まれた想い。

 二人は、心中で祈りを唱えた後、互いに目を合わせて(うなず)いた。

 

「私達は誓います」

「永遠が始まったこの丘で」

 

 青年と少女の言葉に相槌(あいづち)を打つかのように、青白く輝く月に照らされた雪華(せっか)が、彼等をそっと包むように舞い落ちる。透き通るような静謐(せいひつ)が、世界を覆った。

 そして、彼等は喪った人達を思い浮かべて、声を揃えた。

 

「貴方達が願った夢を、永遠に紡ぎ続ける事を」

 

 星が(きらめ)き始めた。あの人達が居た頃と何も変わらない、淡い光を放つ数多(あまた)の星々。

『The Heart of Eternity』

 始まりは、二百一年前に(さかのぼ)る。

 

目次 第一章 第一節