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 私は突拍子も無いこの状況を把握する為に、頭を全速力で回転させる。

 魂界と、魂の全てを器である『私』に注ぎ込み、剣となったフィアレスを持ち存在シェ・ファと戦う事が『真』である。

 転生後の私の肉体が、全てのエネルギーを支えられたとしても、魂界は失われ、生命は二度と循環しない!

 

「どれだけ究極の肉体を持っていたとしても、そんな膨大なエネルギーは支えられません!」

「その心配は不要だ。器が肉体である必要は無いのだから」

 意味が解らない。私は転生するのに、肉体を持たないというのか?

「答は、後で必ず君が見つけなければならない。ちなみに、ハルメス・ジ・エファロードは君を守る鎧となる」

「兄さんが鎧だと?何故私だけが知らないんだ!?」

 私は感情的になり、フィアレスの胸倉を掴んだ。睨み返すだろう、私はそう思っていたが予想外に彼の目は悲しみに満ちていた。

 

「君しか器になれないからだ。僕は剣としてしか転生出来ない。『この魂界』から姿を留めて転生するのは君が最後なんだ。僕はキュアに会う事も、生まれてくる子供を抱き上げる事も出来ない」

 

 私はフィアレスを放した。私自身が理解する必要があるならば、理解しよう。フィアレスの覚悟は本物だ。

「子供がいたんだな。なのに、そんな素振りは一切見せなかった」

「同情されるのは嫌だからね。今から、先代神とハルメス・ジ・エファロードの元へ向かう。異論は?」

「無い。行こう」

 私達三人は、神魂体へ向かう。其処で何が始まるのかは解らないが、大切な者を守る為ならばどんな事でも受け入れよう。

 

〜器〜

 五人が神魂体に集結する。全員がエファロードかエファサタン、錚々たる顔触れだ。こんな事は此処でしか実現出来ないだろう。

「ルナ、フィアレスから聞いたと思うが、俺はお前の鎧となり転生する」

「はい、そう聞きました」

 私は強く頷く。今の私は、どんな話でも聞く覚悟がある。

「ルナリート、我が息子よ。お前には今から、『星剣フィアレス』を携え『星鎧ハルメス』を纏い、『無の層』へ行って貰う。無の層は、魂界の外側にある純粋な無の事を指す」

「無の層で、我等過去の獄王及び神が、存在シェ・ファの虚像を造り出す。その虚像とお前は戦うのだ。そうすれば、自ずと理解する。器の意味を、そして未来を」

 行くしか無いようだ。此処で考えても答は出ない。

 

 フィアレスが、輝石に彩られた漆黒の剣へと変化する。細身で両刃の長剣。見た目は普通の剣だが、フィアレスの力がそのまま剣に変換されており、一振りで星を割る程の力を持つ。

 兄さんが私の身を守る鎧と化す。どんな物理攻撃も神術、魔術をも寄せ付けない最強の鎧だ。何より、兄さんが身を守ってくれるという事実が心強い。

 

「準備が出来たようだな」

「お前達が最初で最後の希望だ」

 

 鎧を纏い剣を携えた私は、父さんと先代獄王、フェアロット・ジ・エファサタンの極術に包まれる。無の層に転送されるのだ。

 転送される寸前、父の声が頭の中に響く。

「(ルナリート、これはフィーネが此処に来た時の記録だ。初代エファロードから頂いた。お前の励みになるだろう)」

 これは……記録、否、記憶の転送だ。フィーネの記憶の断片が、私の意識に展開される。

 

 寂しさを堪えながら、記憶を保ち続けた彼女。永遠の約束を強く、強く信じ続けた心。

 魂体に辿り着き、全ての神と獄王に対して、再び私と巡り会えるように懇願するフィーネの姿。

 

 私は涙が止まらない。

 

 そしてフィーネは転生した。例外的にシェルフィアの魂と共存する形で……

 しかも、神魂体、獄魂体、天魂体、魔魂体の力添えを受けて。だから、彼女は今のように強大な力を使いこなせる。

 彼女は、生まれ変わってこんな話を私にした事が無い。此処での出来事を完全に覚えているというのに。

 

 弱音を吐いている場合じゃない。彼女がいてくれるなら、私は何だって出来る。

 

 

 


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