獄闇が俺に一つずつ炸裂しているのが解る!雷光と相殺し、辛うじて俺の体には届いていないがこのままでは殺される!
「(セルファス、痛いかもしれないけどちょっと我慢してね。)」
幻聴か?ジュディアの声が聴こえた。だが、次の瞬間それが幻で無い事を思い知る!
「カッ!」
俺は突如、眩い光に包まれた!痛い!何て痛いんだ!?これは……究極神術『神光』が俺を直撃しているのだ!
「(敵の闇は消えたけど痛かったぜ!)」
「(だから最初に謝ったでしょ。細かい事は気にしないの。)」
「(おう、サンキュー!)」
「今度はこっちが行かせて貰うぜ!」
俺は宙を蹴り、ケージに斬撃を浴びせる!
「ガキキキィーンッ!」
ケージも漆黒の太刀で応戦する!
「ドドドォーンッ!」
「カッ!」
人間とジュディアの攻撃で魔の軍勢は次々に落ちて行く。
俺とケージは互いに切り傷を負いながらも一歩も引きはしない。俺は更に聖剣の柄に力を込める!
その時だった。
「カッ!」
聖域の方角で眩い光が走った。その後に、世界が激しく揺れ始めるのを感じる!
「ルナ、決着を付けるつもりだな。俺も負けねぇぜ!」
俺は咆哮と共に、ケージに強烈な一撃をお見舞いしてやった。
〜夜明けと共に来たる者〜
ルナリート君からの『転送』のメッセージを受けた後、僕達はあっという間に戦闘準備を終えた。日頃の訓練の賜物だ。
今僕は、すぐにでも飛び立てるようにリウォル城の屋上で待機している。冬の夜風が身に染みる。
此処にはレンダーもいて、僕を見送ろうとしている。
「僕はレンダーとこの街を必ず守って見せるよ」
隣に居る彼女の肩を抱き寄せた。彼女は今にも涙を流しそうな瞳で僕を見つめる。
「貴方が無事で帰ってきてくれるなら、私は何も要りません。だから」
僕は、祈るように囁くレンダーの頭をそっと撫でた。彼女の不安を消してあげたい。
前々から決めていた事を今こそ口にする時だ。
「レンダー、この戦いが終わったら結婚しよう。その約束を果たす為、僕は絶対に死なない」
驚きと喜び、一瞬で彼女の表情に沢山の色が浮かんだ。
「ノレッジさん!勿論、喜んで!」
僕は彼女を抱き締めてキスをした。
ずっとこのままでいたいけど、もう時間は無い。出発しなければ。
「ありがとう、レンダー。婚約指輪もちゃんと用意してある。後で渡すよ」
「うんっ……。ありがとう、凄く嬉しい」
僕は飛び立った。高く高く。その時だった!
「カッ!」
遥か遠く、聖域の方角で強い光と闇の柱がぶつかるのを視認出来たのだ。これは、ルナリート君が全力を出して戦っている事を意味する。
それから数秒後、世界が激しく揺れ始めた!それと同時に僕に『転送』で伝達が入る!
「(魔の襲来です!真東です!)」
街の全方位に配置している見張り台の一つ、東の見張り台からだった!
「(解った、すぐに向かう!)」
僕は全速力で飛行した。見張り台まで数十秒程度かかったが、魔の攻撃はまだ始まっていない。
「何て数だ!」
結界の外、数キロメートル先に巨大な黒い塊が見える。一人の魔が人間と同じ大きさだとするならば、この塊には数万の魔が含まれているだろう。リウォルは、人間界の主要都市。狙われて当然と言えば当然だが……
「ん?」
僕は不思議な違和感を覚えた。魔に向けられた投光機に、突然ひらひら舞う雪が映し出されたからだ。否、違う。この違和感は一体?
「まさか!そんな馬鹿な!」
自分の目を疑う!空に浮かぶ月が、真紅に塗り替えられていたのだ!
100年に一度のレッドムーン……。前回は僅か10年前だ。僕が知る限りでは、レッドムーンの周期には例外が無かったのに!
レッドムーンに照らされる雪は、闇に溶けるような赤を呈している。
僕がレッドムーンの出現に混乱していると、もっと不可思議な事が起きた!
「夜明けが」
余りの出来事に言葉が出ない。
星空とレッドムーンが消え、S.U.N(太陽)が昇り始めたのだ!夜明けは数時間先の筈なのに!
そして……
「ビカッ!」
失明しそうな程強力な光が、魔の中心に現れた!
さっきから、一体何が起こっているんだ!?魔術?否、月やS.U.Nを操作出来るような術がある筈が無い。
僕は恐る恐る目を開いた。
「うぉぉ!」
地上の皆が歓喜の声を上げている!何故だ!?魔の大軍が……いない!
そうか、皆は僕が魔を消したのだと思い込んでいる。違う、僕じゃない!
ルナリート君、セルファス君、ジュディアさんは別の場所で戦っている。それ以外に、あれだけの魔を瞬時に消滅させられる者がいるのか?
その時だった。