「ゲホッ!君は甘いね……。僕を殺すには今しかないんだよ」
「わかってる!すまない!」
俺は目を瞑り、剣を強く握り締めた!血が滲む程強く!これで終わりだ。
「ルナさん止めて!」
「パパ待って!」
二人の叫びが俺の決意を凍らせる。何故だ?
「ルナさんは戦いに勝った。でも、殺さなくても、他に方法がある筈よ!」
「パパ……獄王を殺せば、獄界の魔は怒り……必ず報復に来る。そうなれば、もっともっと多くの血が流れる事になるわ!人間、魔のどちらかが滅びる事になるかもしれない!」
そうか……。
俺は神の血を引く者として、また、この世界の守護者として敵であるフィアレスを殺す選択しか見えていなかった。冷静にならなければ……
最良の方法は、フィアレスを生かして人間界の不可侵を約束させる事なんだ。獄界は統治者を失えば迷走する。
「……はは、君達は本当に甘いよ。僕は人間界を奪いに来たというのに」
嘲笑しながらもフィアレスは口元から血を噴き出す……
「お前は殺さない。だから、人間界への侵攻を今後一切行わないと今此処で誓え」
俺は再び剣を握る力を強めた。
「……断る。それを認めれば、僕は僕としての存在意味を失う。即ち、獄王だけでなく獄界全ての敗北を認めるという事になるからだ。だから、君が取るべき一番賢明な方法は僕をこの場で抹殺する事なんだ。解るだろ?」
その通りだ。神と獄王の意思が薄弱なら、否、柔軟だったら長きに渡って争う事も無かった筈だ。
しかし、リルフィの言う事も正しい……。憎しみからは憎しみしか生まれず、それによって数え切れない犠牲が払われる事だろう。
最良の選択は……
「自分自身と獄界の敗北を認める事が、死よりも難しい事ならば……お前が納得出来る形で出直して来い。次の戦いでは互いの『界』が万全の態勢で臨み、敗者が勝者に従う。それならば、勝敗は神と獄王の独断に委ねられる事は無くなり、真に強き者が証明されるだろう」
此処でフィアレスを殺しても殺さなくても、全面戦争は避けられない。奴の固い意思を秘めた目を見ると、それを確信せざるを得なかった。
フィアレスを殺せば、獄界は激しい憎しみで人間界を襲うだろう。全ての魔が自分の命すら顧みない程の力を発揮すれば、俺が張った結界は破られる。そんな中で人間界を守る為には、魔を殲滅するしか無いのは明らかだ。
だがフィアレスを生かした場合、トップであるフィアレスを魔の目の前で倒し、人間達が魔に対して優勢である事を認識させれば、敗北を認めさせる事が出来る。