〜大切なもの〜
「ザァー」
「ルナさん、ルナさんっ!」
消し飛んだ空間に流れ込む波の音と、シェルフィアの呼ぶ声が聞こえる。
俺、私が意識を失って、ずっと呼びかける声……。この感覚、懐かしいな……
「うっ」
私はゆっくりと瞼を開いた。途端に、涙を流しながら治癒の神術を使い続ける妻の顔が目に入った。
「ルナさーん!」
「パパッ!」
リルフィ……安全な場所に離れたんじゃなかったのか?それより……
「痛いって!」
二人が力強く私を抱き締めるから、傷を負った私には痛かった。勿論、それだけ想われているから嬉しいのだが。
「あっ……ごめんね!」
母娘は照れくさそうに私を抱き締める力を弱めた。
それはそうと、二人が此処にいるという事は、フィアレスはまだ立ち上がっていないという事だ。奴はまだ死んではいないだろう。だが、先に目覚めた私の勝ちだ!そして、私は立ち上がった。だが!
「グッ!」
激痛で立ち続ける事が出来ない!シェルフィアの強力な神術で出血は止まっているものの、内臓の損傷は完治していないようだ。
「パパ!無理したらダメよ!」
「そうよ!ちゃんと治すから、暫く安静にして!」
こうして、再び私の治療が始まった。
目を閉じて、どれぐらいの時間が経っただろう?体が修復されていく心地良さで眠りに落ちようとした時だった!
「これで、ロードも終わりだね」
先刻受けた傷が塞がり、魔剣を携えて近寄るフィアレス!奴は迸る力に包まれ、剣の一振りで今の私を殺せそうだ!
「そうはさせないわ!」
突如叫ぶシェルフィア!私から離れ、精神力を集中している!
「転生して力を得たとはいえ、エファサタンの力に勝てると思ってるの?」
「連続……『滅』!」
数十m程度の小規模な滅が数十箇所に発生し、それが全てフィアレスに炸裂する!
「シュウゥゥ!」
抉られた空間の後には!?
「その力は最早人間の域じゃないね。力を継承したロード、サタンには及ばないけど大したものだ」
殆ど無傷のフィアレスが立っていた!滅を受けた体の表面は一部損傷しているようだが……
「近寄らないで!」
「パパを傷付けないで!」
二人はフィアレスの行く手を阻むように私の前に立った!このままでは!?
「邪魔だよ」
「ヒュッ!」
フィアレスの剣が二人に襲いかかる!
「キィッー……ン!」
私……俺は痛みも忘れ立ち上がり、フィアレスの剣を瞬時に防いだ。
「俺の大切な人に剣を向けるとはいい度胸だな!」