【第五節 夢に落ちる】
「パパ、ママおはよう!」
眩い朝陽を受けて、元気なリルフィの声が厨房全体に響く。シェルフィアは朝食の準備をしていて、私は紅茶を飲んでいる。そこにリルフィが元気良く現れるのはいつもと変わらぬ平和な日常が続いている証拠だ。
「おはよう!」
椅子に座る私と、スープを火に掛けているシェルフィアは同時に返事をした。今日も夏の陽射しが昇り始め、生きる者全てに恵みの光を齎している。さぁ、今日も幸せな一日の始まりだ。家族3人で仲良く美味しい朝食を頬張っていると、今日も一日頑張ろうという気力が漲るのを感じる。
「それじゃあ、わたしはウィッシュ(ルナ草)に水をあげたら学校に行くね!」
朝食を食べ終わったリルフィは椅子から元気よく飛び降りた。まだ8歳のリルフィにとって、大人用のテーブルで一緒に食事をするには少し高い椅子に座らなければならない。だが子供の成長は早いので、こんな光景を見られるのも後少しかと思うと嬉しい反面ちょっと寂しい。少し前までは、私とシェルフィアにずっと抱っこされていたというのに……
「本当に、子供の成長って早いわね」
「あぁ、あの子を見ていると月日の流れを実感できるよ。そして、歩んできた道程をね」
「ルナさんっ」
シェルフィアはそう言うと、私の首に抱き付いた。私も優しく彼女の背中を抱き絞める。200年以上前からお互いを思い続けて、今もこうして同じ場所で同じ事を考えられる。この幸せを脅かす物は何も無く、ゆっくりと時間の流れに身を委ねられる他に何を望むだろう?私は何も望みはしない。この日も、リルフィを見送り私達はキスをして互いの仕事を始めた。この後、今までの日常とは違う非日常が待ちうけている事も知らずに……