しばらく歩いていると一瞬、心の中に何か聞こえたような気がしたが気の所為だと思い城に帰った。城に帰ると、溜まっていた書類をサッと読み審査した。それが終わったのは、夜中の1時ぐらいだったが別に辛いとは思わない。今の暮らしはとても充実しているからだ。
「(さて、明日も人間界では変化に富んだ日が待っている。早くレンダーの病気を治せるような薬を作らないとダメだな)」
と考えていると、いつの間にか眠りに落ちていた。
〜何よりも大切だという事〜
「ドンドンドン!」
ん?何処か遠くでドアを激しくノックする音が聞こえた。階下だろうか?一体今何時なんだ?薄明かりの中、置時計を探し月光に照らすと時刻は午前3時だった。眠ってからほとんど時間が経っていない。僕が出る必要があるなら、兵が僕の所まで来るだろう。今日は疲れたのか眠過ぎる。
「コンコンコン!ノレッジ様!レンダーの父親が来ております!娘が危篤との事です!」
「何!」
僕の眠気は一瞬にして消失した!と同時に、例えようがない程の悪寒が全身を駆け巡った。全力で城の入り口まで走った!
「ノレッジさん!レンダーがこんなものを!」
と父親が僕に手紙のようなメモを見せた。内容は!
「ノレッジ様へ 今までずっとありがとうございました。10年間……私の事を考えて下さって嬉しかったです。余り時間が無いので、大事な事だけ書きますね。ご迷惑だとは思いますが……ノレッジ様、私は貴方の事が大好きでした。貴方はいつもいつも優しくしてくれたから。他の人は私の事を可哀想だと思うかもしれないですが、私は十分幸せでした。父も母も私を愛してくれて、ノレッジ様もいつも傍にいてくれたから。でも、私は自分の時間が残り僅かだって知っています。だから……感謝を伝えたくて手紙を書きました。本当にありがとうございました」
そんな馬鹿な!さっきまでは普通に話も出来たのに!
「ノレッジさん!俺と妻とノレッジさん宛てに一通ずつ手紙を書いてレンダーは!」
「わかりました!……僕が絶対助けます!」
僕は珍しく冷静さを欠いていた。何よりもレンダーを助けたい一心だったからだ!僕は消えつつある翼を開き、彼を抱えて家まで飛んだ。
「レンダー!今ノレッジさんが来てくれたから!」
僕は、彼女のいる部屋のベッドまで走った!すると……
「レンダー……レンダー!」
レンダーの傍で泣きじゃくる母親……それもその筈だ。レンダーの吐血でベッドは真紅に染まり……彼女自身も意識を失い、微かに動いているだけだったのだから!