「今日の授業参観楽しみね。リルフィ、ちゃんと先生の質問に答えられるかな?」
お互いの持ち場に就く前にシェルフィアはそう言った。10年前から変わらない私の好きな瞳、肩より少し下まで伸びた柔らかな金の髪。今も尚、そしてこれからも彼女に対する愛しい気持ちは不変だ。
「はは、心配いらないよ。私達の自慢の娘なんだから」
これが俗に言う親馬鹿というものだろう。しかし、自分の子供が可愛いが故に期待してしまうのは仕方ない事なのだ。
「ふふ、それもそうね。本当に……優しくていい子に育ってくれて嬉しいわ」
そう言いながら彼女は幸せそうに微笑む。私は周りに人がいない事を確認してから、シェルフィアにキスした。
私は、最愛の妻と娘に囲まれて世界中の誰より幸せだ。
〜穏やかな日常〜
私は今日の仕事の手初めに、まずは世界中から集ってくる『報告書』や『意見書』に目を通した。各地の現状や改善点、新技術の開発状況などを理解する事が目的だ。毎日書類は数百枚に及ぶが、大体1時間程で把握出来るので今は一人で何とかなっている。しかし今後書類の査読も含め、皇帝としての仕事量が大幅に増えれば流石に一人では無理だろう。その時は人間達にもっと多くの事を任せなければいけないな。そんな事を考えながらも、今日はリルフィの授業参観なのでいつもは一日かけてやる仕事を午前中に終わらせた。
「コンコンコン……皇帝、ミルドよりセルファス様とジュディア様がお越しです」
ミルド、全ての始まりの地。私が堕天し、フィーネと出会い……旅立ちを決めた場所。そしてミルドの丘は、死してもなお消えない愛を誓い……生まれ変わっても再び巡り会う『永遠の約束』の場所だ。
「どうぞ」
私がそう言うと、ドアは遠慮なく開いた。こんな開け方をするのは世界にセルファスぐらいのものだ。
「よう、ルナ!相変わらず皇帝は大変そうだな!」
と、セルファスこそ相変わらず陽気に私の肩を叩いた。元々少し大柄だったが最近更に逞しくなった気がする。
「そうだな、ある意味天界での勉強の方が楽だったよ。勉強は自己責任だけど、皇帝としての仕事は多くの人の事を考えなければいけない。それがたまに重荷と感じる時もあるな。でも、自分も含む皆の幸せを想えば多少の辛さは何ともないさ」
私はそう言って笑顔を見せた。
「流石ルナね、でもそろそろ支度した方がいいわよ!」
セルファスと共に現れたのはジュディア。リルフィが生まれた1年後、二人の間には『ウィッシュ』という男の子が生まれた。現在彼は7歳で、リルフィとは幼馴染だ。今日、セルファスとジュディアがミルドを離れてここに来たのは息子の授業参観を見る為だ。