第二十二節 至幸の協奏曲

 あなたの手は温かい。あなたと手を繋いでいると、心の中までぽかぽかする。ルナさんの隣で、可愛い服を着て街を歩く。何て幸せなんだろう。

 私達は、ずっと手を繋いだまま色んな店を回った。可愛い雑貨の店、初めて見るお菓子が売っている店。そして、今から私が一番行きたい場所に向かう。

「ルナさんっ、あれです」

「結構大きいんだな」

 直径二百m程の円形の劇場だ。白亜(はくあ)の外壁と屋根が眩しい。此処では、毎日「リウォル楽団」による演奏会が行なわれる。楽団は、木管楽器・金管楽器・弦楽器・鍵盤楽器・打楽器で構成され、私は鍵盤楽器のピアノを是非見たかったのだ。

 ピアノの、繊細で美しい音色が私は好きだ。小さい頃ピアノ奏者に憧れていたが、村や家にそんな余裕は無かった。でも……、この旅が終われば、ルナさんの隣でピアノを弾けるようになりたいな。

 私達は、劇場の階段席の最前列に座った。ルナさんが交渉してくれたお陰だ。席に座っても私達は手を繋いだまま。リバレスさんは、ずっと黙っている。気を遣ってくれているのだろう。彼女の気配りは、私なんかよりずっと木目細(きめこま)かい。見習わなくちゃ。

「幕が開いたな」

「はい、ドキドキします」

 本当はずっとドキドキしている。今朝、ルナさんが目覚めてくれた時から。

 皆が、劇場中央のステージに立つ指揮者を注視する。演奏が始まった。

 素晴らしい演奏だった。特に、ピアノ協奏曲が。儚(はかな)げな旋律の中に秘められた、情熱と強さ。完璧な和音の中に時折混ざる不協和音。まるで、人の人生そのものだ。ルナさんも演奏に聞き入っていた。「天界にも引けを取らない」らしい。

 日が海に沈んで行く。世界は温かな橙(だいだい)色。あなたの傍に居ると温かい。どんな苦しい事があっても大丈夫な気がしてくる。

 あなたの横顔、あなたの声、あなたの心。出来ればずっと、隣に居させて下さい。

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第二十三節