「そうですか!それは良かったです。作った甲斐がありますよ!」
彼女も微笑む。作った料理を美味しく食べてもらうのは幸せなんだろう。
「でも一つだけ……トーストが辛かったよ。私は、フィーネが作った辛いトーストも好きだけどな」
と、私は笑いながらそう言った。
「ふふっ……またやっちゃいましたね!でも、ルナさん優しいから」
と、全く気にしていない私の様子を見てフィーネも笑っていた。
「(あーあー妙な雰囲気ねー……ルナリート君。)」
そこに、わざわざテレパシーでリバレスが余計な一言を挟む。
「(……うるさいぞ、蝶々!)」
私は応戦した。
「(うっ!ムカッ!わたしは蝶じゃなーい!)」
リバレスは怒った。怒って、私の髪を引っ張る。
「どうしたんですか?」
その無言のやり取りを見て、フィーネは怪訝な表情を浮かべた。会話が聞こえなければ、この光景は不思議な事だろう。
「いや、何でもないよ。それより、今フィーネがこの街でやりたい事はあるか?魔物退治以外で」
と、私は唐突に訊いた。これには勿論意味がある。
「どうしたんですか?急に?」
フィーネは不思議そうに首を傾げた。それはそうだろう。今まで私はそんな事を言った事がない。
「うーん……私が倒れてからずっと看病してくれたお礼に、何かやりたい事や欲しい物があるなら、叶えてあげようと思ってな」
そう言って私は頭を掻いた。これは、今までの魔物と戦う旅とは関係なく、フィーネと息抜きでもしたいと思ったからだ。
「え!そんな、悪いですよぉ!」
と、フィーネは一瞬嬉しそうな顔をしたが、思い直して首を振った。
「ルナが、こんな事を言うのは1000年に一度あるか無いかよー?いいのー?」
私の髪を引っ張っていたリバレスがこんな時にだけ言葉を挟む。お節介な天翼獣だ。
「1000年!それじゃあ、是非お言葉に甘えます!私は、買い物とか、美味しい料理店で食事とかしたいです。それと、この街の名物の音楽隊の演奏も聴きたいです。もちろん、ルナさんの付き添いで!」
と、フィーネは俯き加減で頬を朱に染めながら、恥ずかしそうに言った。あどけない仕草が可愛らしいと思う。
ただ、買い物は少し人間染みていて気が引けるが……でも、フィーネと行けばきっと楽しいだろう。
「よし、わかった!行こうか」
私は笑顔でそう言った。体はほぼ完治している。一応、何があってもいいようにオリハルコンの剣は持っていこう。