「へーえ……ちょっと前までは、『下等な人間と暮らすのは苦痛だ』って言ってたくせにー!」
さらにリバレスは面白そうに私をからかう。
「こら!『蝶々』、いい加減にしろよ!」
そこで、私までムキになってリバレスが怒る呼び方をした。
「ムカムカッ!わたしは『蝶』じゃなぁーい!」
リバレスの姿は妖精や蝶そっくりだ。だから、蝶と呼ぶと怒る。
この夜、フィーネは寂しそうだったが無事に過ぎていった。そして、皆が寝静まった頃に私はベッドを抜け出した。
空には星が出ているが、月は雲に隠れていた。段々、雲が増えてきているのがわかる。明日は天気が悪いかもしれない。
そして、私は甲板の椅子に座り世界地図を開いた。そこには、フィーネがミルドからルトネックまでの旅路を赤い線でマークしてあった。
「明日で一週間か」
私はミルドの丘から始まった旅を思い返していた。とても、充実した日々だった。そして、フィーネの存在が私にとって大きくなってきたのも自覚している。今までの、天界の生活と違った日々……そして、フィーネがいる事。今の生活は天界の1000年を上回る意味があると断言できる。
まだまだ、私の200年は長い。もし、フィーネがこのまま傍にいてくれたとしても50年位だろう。そう思うと、人間界の生活がとても長い……
悠久の時にも思える。この200年は、『刑罰』というよりも掛け替えの無い『思い出と経験』だと思う。そして……200年後には、きっと私は『贖罪の塔』を登って天界に戻るだろう。この地図にも不思議な事に『贖罪の塔』と記してある。人間達がその名を知っているのは意外だが、堕天の期間が終われば数千階の高さにもなるその塔を登らねばならない。
私は、そんな事を考えながら乾パンを少しかじった。やはり、少し空腹になってきたが我慢して眠る事にした。