【第五節 死毒】
翌朝、船は『レニーの街』の船着場に到着した。パラパラと雨が降り、霧に包まれて20m先も見えない。時刻は午前7時30分。乗務員が荷下ろしを行っていて、私達が下りられるのは8時頃になるらしい。まだ、リバレスは指輪に変化したまま眠っていた。
「少し時間がありますし、朝食を取りましょうか?」
と、フィーネは海を眺めていた私に笑顔で話しかけた。
「ああ、ちょうど空腹だったんだ。頼むよ」
と、私は正直に答えた。つい最近までなら、人間の施しなど受ける気がしなかったのに。
「じゃあ、今日は缶詰と干し肉とパンにしますね」
と言って、次々と簡単な料理が出てきた。船の甲板の無機質なテーブルが華やかになっていく。
「フィーネは料理がうまいな」
と、私は思わず感心して声をかけた。
「え!そんな事ないですよぉ。ルナさんにはいっぱいお世話になってるから、私も頑張ってるんです!」
と、フィーネは素直に照れながら返事した。
「いや、色彩のセンスもいいと思う」
と私が褒めると、フィーネは尚も嬉しそうに食卓を彩っていった。雨が降っていたが、食卓はパラソルの下にあるので私達は濡れる事もなく楽しく朝食を摂る事が出来た。
「昨日の晩は三人とも疲れて泥のように眠っていたからな」
と私が思い出して話すと、
「昨日はもっとお話したかったんですけどね」
と、彼女は寂しそうに漏らした。私が天界から堕ちて以来、ゆっくり休めたのは昨日が初めてなので仕方ないのだが。
「フィーネは、あれだけの事があったんだから疲れて当然なんだ。今日から、また頑張ればいいさ」
と私は、彼女を元気付けた。
「はい!頑張りましょう!」
と、フィーネは満面の笑みを見せた。
「(ふわー、もう出発?)」
と、ここでリバレスが目を覚ました。その後、リバレスはESGと水を摂り出発の準備は整った。