「ここから見える景色も美しいな」
私は思わず、言葉を発した。
「(そうねー……この夕陽の景色は天界と変わらないかもねー……でも、天界の整然とした風景とは全然違うから、ずっとずっと遠い場所に来たって感じがしてちょっと寂しいわー)」
確かに私もそう思った。天界で見る黄昏は、神殿や建造物、そして画一的にされた森林の姿だったからだ。
しかし、感傷に浸っているとしばらくして、フィーネが近付いて来るのが見えた。
「あ、来てくれたんですね!良かった。あなたがここにいるという事は」
私は、彼女にかけられた言葉よりも、彼女の外見の変化に驚いた。昨日までの、優しく純粋でこの世の闇を見たことの無いような目は、涙で少し腫れている。さらに、子供の様な純粋さは消えて、ある強い決意を持った目に変わっていたのだ。そして、背中まで真っ直ぐに伸びていた栗色の長い髪は、昨日の整った感じは見受けられず、所々で乱れていた。
しかし、昨日は感じなかったのだが『美しい』と感じた。強い志の裏に悲しさを秘めている、その少女の健気さに惹かれたのだろうか?
「初めに言っておくが、私は君の話を聞くだけだ。それ以上は期待しないでくれ」
私はフィーネの姿に驚きながらも、最初にかけた言葉は冷たいものだった。私は、出来もしない優しい言葉などかける気はない。
「……そう……ですか……わかりました」
「(あれっ、物分りがいいわねー?)」
その瞬間に、彼女の表情は曇り涙を流しそうにさえなった。しかし!
フィーネの顔は強い覚悟の表情に変わり、ベルトに通した大型のナイフを取り出した!
「……無駄だ。そんな物で私を脅そうとしてもな。君の力では私を傷つけることすら出来はしない」
そこで、リバレスも多少の危険を感じたのか元の天翼獣の姿に戻った。
「自殺しようとしてもムダよー!あなた一人の命でルナの考えなんて変わらないんだからー!」
私達の説得を聞いているのか聞いていないのか、フィーネの表情は変わらなかった。その顔で私達をじっと見据えている。
「……違います」
ようやく、口を開いた。口調が重々しい……
「……私が、魔物を全て倒しに行くんです!私から全てを奪った魔物を!」
驚いた。こんな脆弱な人間が『魔』を倒すだと!?冗談も甚だしい……しかし、彼女は本気の様でナイフを強く握り締め強い怒りの表情を湛えていた。
「やめるんだ!無意味に命を捨てようとするな!」