「人間は脆く作られてるからしょうがないのよー!」
そこで、リバレスが割って入った。少し、怒った口調になっている。それもそうだろう。私達が、人間のために動く理由などないのだから。
「私達の村は……原因不明の悪病に見舞われ……度々魔物に襲われます。それでも、みんな頑張ってこの鉱山で働いていたのに……それが……またこんな事になって!」
フィーネは再び泣き出した。しかし、すぐに堪えて話を続けた。
「……ウゥ……いいえ……私の村だけではありません。世界中の村や街が同じように!……だから……だから、どうか……力を貸してください!」
そう言って彼女は私の右手を両手で掴み、哀願した。
「……私達にそこまでする義理はない。料理の礼なら十分に返したはずだ」
私は、冷たく言い放つしかなかった。そうでもしなければ、この娘は諦めないだろう。
「……そんな……そこを何とか……私なら何でもしますから!
……どうか!」
悲しみ……苦悩……私達への希望……そんな感情が、必死な言葉を通じて伝わってきた。
「無駄よー。ね、ルナ?」
しかし、それでも人間が私達の心を揺り動かせはしなかった。
「せめて、この鉱山の入り口までの安全は確保しておくから……村へ帰るんだ」
私は、掴んでいた手を振り解いた。理由の無い事の為に動く程……私は善人じゃないんだ。そう、自分に言い聞かせ、私はフィーネに背を向けた。リバレスも私に続く。
「……私……明日の夕方6時に……あなたが倒れていた丘
……ミルドの丘であなたを待っていますから!あなたを信じて待っていますから!」
フィーネは最後にそう言った。私はこの言葉には答えられなかった。人間は天界で教えられている程、下等な生物なんだろうか?どうしてこんなにも……たった一人の人間の娘が強い心を持てるのか……他人を信じる事が出来るのか?
しかし……『私達は人間に協力する義理も理由もない』
……それが、その時の私の考えだった。
そして、私とリバレスは鉱山を出た。途中危険は無かったので、フィーネも無事に帰れるだろう。嵐はいつのまにか止んでいた。まさか、人間界に来てたった一日でこれだけ多くの事があるとは思ってもみなかった。私とリバレスは疲れ果てて、山の中の森で野宿をすることにした。私が『保護』の神術で私達を包み、それでテント代わりにした。フィーネは最後に「明日、丘で待つ」と言った。だが、私達が行くことはないだろう。